組織が巨大化してもベンチャースピリットを失わず、斬新なアイデアを発信し続けるグーグル。社員の自発的な創造力を促すためにあえて組織を管理しないその経営手法は知識創造型産業のモデルとなるのだろうか。
「普通の会社」では新しい技術は生まれない
いかなる大企業も最初は小さなベンチャー企業だった。新しい技術や商品を武器に市場に少人数で攻め入るが、やがてシェア拡大とともに社員が増え、組織が肥大化していく。必然的に階層化と人事管理による業務の効率的遂行を追求していくことになる。
しかし、そうした管理手法は、ベンチャーの持つ絶えざる技術革新と、それを支える社員の“情熱”を奪うという、副作用を伴う。ある者は組織に息苦しさを感じて退出し、ある者は組織に慣らされていく。行き着く先は大企業病である。
そうであるなら最初から組織(階層化)をつくらない、社員を管理しないほうがよさそうだが、果たして可能なのか。
ベンチャー企業から巨大ネット企業に変貌したグーグルは、検索・広告・ネットサービス分野で驚異的な成長を実現し、創業12年目にして社員数2万人を超える。このグローバル企業の原動力は旧来型組織モデルの「普通の会社」の否定にある。
同社の吉田善幸人事部長は「世界にない新しい技術や製品を生み出していくには、普通の会社と同じやり方ではだめだという発想があります。社員が自発的に自分の仕事にバリューを加えるような創造性を維持するには、できる限り階層をつくらず、仕事を管理しないことに尽きる。仕事に『管理』が入れば、イノベーションは絶対に生まれません」と言い切る。
確信の原点にあるのは創業者の原体験だ。共同創業者のラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが開発した検索エンジンは、知人のガレージを借りて、少人数で寝食をともにしながら打ち込んだからこそ生まれた。その体験が、クリエーティブなものをつくり出すには小さな集団がやりたいことに情熱を注ぐべきという価値観となり、その姿勢は「会社がどんなに大きくなっても維持していく」(吉田部長)という。