「寿命を縮めるのは、『糖質』ではなく『タンパク質』の摂取です」――衝撃的な言葉を述べたのは、理化学研究所生命機能科学研究センターの小幡史明氏。小幡氏の新著『「腹八分目」の生物学』では、最新の知見から「寿命に関わる栄養素」を深掘りしている。若い人ほどタンパク質の摂取がデメリットになりうるという。今、研究の現場で明らかになっていることを取材した。

タンパク質を減らしたほうが寿命が……

近年、ごはんやパン、麺類など主食(炭水化物)に含まれる糖質が「太る」「老化や病気を招く」と嫌厭されてきた。

炭水化物は主に「糖質と食物繊維」から構成される。そのうち糖質は分解されてブドウ糖になり、血液中に溶け出して全身に供給されるのだが、ブドウ糖があまると中性脂肪として蓄積されて肥満を招く。そのため、できるだけ糖質の摂取を抑えるダイエット(糖質制限)がブームになり、市場には糖質オフを謳う食品が続々と登場した。

そして糖質に代わって人気を集めたのが「タンパク質」だ。「筋肉の維持・回復にはタンパク質が必須」などといわれ、今もプロテイン(タンパク質)入りのさまざまな商品が流行している。

つまり「糖質は悪」で、「タンパク質は善」という図式なのだ。

ところが、である。

理化学研究所生命機能科学研究センターの小幡史明氏は「カロリーを同一にした場合、糖質よりタンパク質が老化を早め、寿命を縮めているのです」と指摘する。

「糖質や脂質は摂りすぎたらよくないとされ、実際にそうだと思うのですが、なぜかタンパク質の摂取上限についてはあまりエビデンスがありません。栄養学の中で研究が遅れているのでしょう。ですが数々の研究、マウスやラットなどの動物実験、また私たちがショウジョウバエなどで検証すると、餌からタンパク質を減らしたほうが寿命が延びるのです」

小幡史明氏
本人提供
小幡史明氏

炭水化物を少なくしても寿命は延伸しない

そのひとつ、ショウジョウバエを用いたある実験を紹介してくれた。

「糖(炭水化物)と酵母(タンパク質)の『両方を豊富に含む餌』と、両方とも減らした『食餌制限餌』を作ると、両方減らした場合に寿命が大きく延長しました。次にその食餌制限では、糖と酵母のどちらを減らすことが大事なのか(あるいはただカロリーを減らせばいいのか)を確かめるため、餌を調製。すると糖を減らしても寿命はそれほど変化しませんが、酵母を減らした場合には寿命が大きく延長したのです」

【図表1】ショウジョウバエにおける日齢と生存率の関係(生存曲線)
出所=Mair, W. et al.: PLoS Biol. 3, e223 (2005)をもとに作図した『「腹八分目」の生物学 健康長寿の食とはなにか』(岩波書店)より抜粋 イラスト=安斉俊

もちろんタンパク質を減らせば減らすほど長寿になるわけではない。ある一定以上に減らすと栄養欠乏になり寿命は短くなってしまう。

「タンパク質摂取量は、少なくても多すぎても短命なのです。ショウジョウバエの実験では、タンパク質の摂取が少なく炭水化物の摂取が多い群で、その比率が『1:16』くらいになるようなところで寿命が最大化されています。言い換えると、タンパク質量が少ない餌では長寿で、炭水化物を少なくしても寿命延伸効果はなかったのです」

これまで糖質こそが悪で、タンパク質は善だと信じてきた読者には驚きだろう。私も小幡氏の著書『「腹八分目」の生物学 健康長寿の食とはなにか』(岩波書店)を読み、「寿命とタンパク質」に深い関わりがあることを知って、これまでの常識が覆されるようだった。そこで直接取材したいと申し込むと、ちょうどその週に東京都内で出版記念トークイベント(主催:ウィークエンド・カフェ・デ・サイエンス)が行われるという。10月半ば、これに参加したのだった。