現代人は、ほとんどの人が無意識に体のどこかを力ませて暮らしているという。トレーナー歴25年、のべ4万人以上へのパーソナル指導経験のある鈴木亮司氏は「無駄な力みは、痛みやこりの原因になるだけでなく、睡眠や精神状態に悪影響をおよぼします」と指摘する。就寝前に行うと、体がほぐれて眠りやすくなる1分間ストレッチを紹介する――。

目の緊張から体全体の力みにつながる

寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚めてしまう――ビジネスパーソンが多く経験する悩みだ。筆者も締め切りが立て込んでいるときほど、翌朝にスッキリした感じがしない、つまり熟睡感がないことがよくある。

「脱力」はなぜ体にいいのか』(青春出版社)などの著書があり、のべ4万人以上にパーソナル指導を行ってきたトレーナーの鈴木亮司氏は、熟睡できない大きな要因は「体の緊張」だと説明する。鈴木氏は格闘家選手を経て、プロのアスリートから80歳以上の高齢者まで「がんばらなくても効果の出るトレーニング」(=体芯力体操)を長年指導してきた。

「現代人は常に自律神経の交感神経が優位になり、体の活性化=緊張が促されやすい状態です。なぜ交感神経が優位になってしまうのか。夜は暗闇の中で過ごしていた古代人に比べて、現代人は夜間でも光を浴び続けてしまうこと、また“近くを見続けてしまうこと”が体を過度に緊張状態にさせます。クライアントの方を見ていても、目の緊張から体全体の力みや不調へつながっている人が本当に多いのです」(鈴木氏、以下同)

アメリカ眼科学会では眼精疲労対策のひとつとして「20-20-20ルール」がある。連続して近くを見る作業は眼精疲労を起こしやすいため、「20分に1回、20秒間、20フィート(約6m)離れたところを見る」というものだ。国内でも1時間に1回程度は、2メートル以上遠くを見ましょうといわれている。しかし仕事に集中していると、1時間以上パソコンを見続けている状態であることも少なくない。

「じっと近くを見ていると、頭の動きも止まりますよね」と鈴木氏。

「すると耳の奥にあり、平衡感覚を司る三半規管も動かないため、その機能が衰えていきます。三半規管が衰えると、体のバランスが狂い、結果的に姿勢がゆがんで不自然な力みが生まれます。緊張状態が続くため筋肉も硬くなり、リラックスできないのです。すると眠れないということにつながってしまいます」

「前屈」で柔軟性をチェック

基本的に体が柔軟な人は緊張の度合いは低く、硬い人は高いそうだ。まずは現在の緊張状態(柔軟性)を知るために「前屈」をしてみよう。足をそろえて膝を伸ばしたまま前屈をし、指がちょっと床に触れるくらいであればOKだ。ちなみに鈴木氏は手のひらが床にぴったりとつく。

「僕の場合はちょっと柔らかすぎるんですが……」と言いながら鈴木氏が前屈
「僕の場合はちょっと柔らかすぎるんですが……」と言いながら鈴木氏が前屈。手のひらがぴったりと床につく。調子がいい日は肘まで床につくのだとか。

ここで体が硬い人は、自分の体を柔らかくするために1分間、全身をくまなく“さすって”ほしい。嘘のようだが、「全身をさするだけ」で体の柔軟性が増すという。

「顔を両手で洗うようにさすり、続いて髪、後頭部、そして首から肩にかけて、また肩から腕、肋骨まわり、おなかまわり、太もも、ふくらはぎ、足の裏と全身をさすってください。その後にもう一度前屈してみましょう」

いかがだろうか。筆者もこの原稿を書きながらやってみたが、全身をさする前は前屈して手の指の第一関節までしか床につかなかったのに、さすった後は指全体が床についた。

この動作を鈴木氏は「ボディマップ体操」と名付けている。

「さすることで、私たちが脳内に持つ“身体地図”が鮮明になり、無駄な力みがとれるのです。感覚に不鮮明な部分があると、脳は不安になってその部分を緊張させてしまうんですね。例えば歩いていて家具や柱の角に足の指をぶつけてしまう、段差につまずくというようなことがよく起きる人は、脳のボディマップが不鮮明な証拠。その不鮮明な部位に自ら触れる(さする)ことで、脳内で触覚を担当している感覚野が発達し、神経回路が良くなって体を動かしやすくなるのです。脳が安心しますから、その部分に『緊張しろ』という指令を出さなくなります」