日本人の右傾化は閉塞状況の裏返し

ドイツが国際的プレゼンスを発揮しつつも、近隣諸国と良好な関係を維持しているもう1つの理由は「教育」である。

ドイツでは過去2度の大戦でヨーロッパを焼け野原にした反省と、ナチスの反ユダヤ主義に対する反省を教育課程で徹底して行っている。欧州の繁栄のためなら自己犠牲も厭わない。欧州の繁栄、周辺国との融和こそがドイツ繁栄の道であるという教育が施されているのだ。

欧州におけるドイツ語にもこだわらないから、EUやその前身のECができたときにも主要言語は英語とフランス語になった。ドイツ人は英語やフランス語を勉強して誰とでも話せるようになってきた。EUの組織でドイツ人はほとんど主要なポストに就いていないし、自らポストを要求したこともない。ESM(欧州安定化メカニズム)でもドイツは最大の貢献をしているが、ポジションは要求しない。

ドイツ人は優秀で勤勉だから放っておいても強くなる。しかしその強さが少しでも際立つと「ナチスの再来」と声高に言われる。現にギリシャでは緊縮財政を要求するメルケル首相はひどく嫌われている。従ってドイツ人は過度に自己を主張したり、ドイツらしさを表に出すことを抑えて、昔のように「かくあるべし(sollen)」という言い方をする人はとても少ない。

周辺国と国境を接しているドイツは領土問題を数多く抱えている。しかし300年も戦ったフランスのアルザス・ロレーヌ地方を「ドイツの領土だ」と主張しないし、ポーランドとの国境問題でも自己主張をしない。今ではロシアの飛び地となっているカリーニングラード(旧称ケーニヒスベルク)にはドイツ語を話す市民が40万人もいて歴史的にも人道的見地からもドイツ領を主張できるはずだが、ドイツ人は領土問題を蒸し返すようなことを絶対にしないのだ。

そしてロシアの対独戦勝記念日やポーランドの終戦記念日には毎年、ドイツの首相か大統領が訪問して戦争犠牲者の碑に献花する。過去の戦争に対する深い反省とヨーロッパ連帯の大切さを、指導者が自ら行動で示す。一方で、経済的な負担はEUの誰よりも進んで負担する。だから周辺国からも「もっとも頼りになる国」として尊敬される。こうした教育を受けて育ったドイツ人、またその微妙な外交センスを理解しているマスコミは、安倍首相のような周辺諸国を刺激する言動を取る指導者を許容しないだろう。

日本人の右傾化は最近の20年間の閉塞状況の裏返しではないか、と思われる。日本では戦争の総括をする暇もなく戦後の大躍進が始まってしまったし、アジアにおける日本の将来像を描ききる指導者も出てきていない。「能ある鷹は爪を隠す」を体現して成功しているのがドイツで、落日の劣等感の裏返しで、爪をむき出しにしているのが日本なのではないだろうか?

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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