「20歳になった頃には、人間の心の動きなど、メカニズムを見るようにわかってしまった」とは、夭折したフランスの作家、レイモン・ラディゲの言葉である。『ドルジェル伯の舞踏会』では、微細な心の動きが、複雑でありながら、ある種のメカニズムの法則のように描かれていた。車で隣り合わせになった婦人の肩とシートの間にはさまれてしまった掌を、そのままにしたほうがいいのか、あえて離したほうがいいのか、そんな微細なことにまで、心のメカニズムが働いている描写を、20歳の人間が書いているのである。男女の感情の動きも、天才にとってはメカニズムとしてわかってしまうのかもしれない。もちろん、それは科学的な捉え方とは違うけれど。
脳について書かれた本は、書店でひとつのコーナーができてしまうほど無数にある。本書は120ページほどの薄い本なのだが、日々振り回される感情や倫理感と、脳とのかかわりが、できる限り科学の視野から捉えてみるとどんなものなのか、私のような門外漢にもわかりやすく解説されている。
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