東京という街を舞台とした復讐の物語である。
グレーゾーン金利の問題が取り沙汰され、消費者金融会社が規制の強化によって解散してから数年後のことだ。過去に激しい取り立てを行っていた元社員が、次々に奇妙な方法で惨殺されるという事件が起こる。その捜査に乗り出した2人の刑事は、事件の背後にかつての多重債務者たちが働く小さな清掃会社の存在があることに気付いていくのだが――。
北海道在住の作家・佐々木譲さんは次のように語る。
「かつて街金によって人生を狂わされた者たちが、復讐のために人を殺していく。そのような小説を描こうと考えたのは、今の日本が本当の意味での格差社会になってしまったと感じるからです。使いきれないほどの金を持つ数%の人々と生きること自体にさえ希望を感じられない人々との差が、決定的なまでに広がってしまった。そんな今の日本の様相を描いておきたかったんです」
消費者金融への規制強化の背景には、借金を苦にした自殺などが社会問題化したことがあった。多くの警察小説を手がけてきた佐々木さんにとって、それは以前から心に引っかかっていたテーマの1つだったという。
「主人公たちは決して自堕落な生活を送っていたから借金を背負ったわけではありません。人生の回転があるときほんの少し上手くいかなかっただけに過ぎない。でも、そんな彼らを救済するシステムが社会になかったがゆえに、自殺を考えなければならないところまで追いつめられてしまう。そのような社会とはいったい何なのだろうか、という私自身の怒りが彼らには投影されています」
そんななか、主人公たちは次第にその構造の上に立つ「巨悪」へと目標を定めていく。幾重にもゲート化された六本木の巨大ビルを舞台に、全てを失った者たちが死を賭して成し遂げようとする計画は、警察との攻防と相俟って手に汗握る。
「これは私自身、小説を描き続ける中で徐々に気付いていったことなのですが、『犯罪』を描くということは、社会の最も最先端の部分、あるいはその様相や歪みを描くということです。そこを描ければ、『いま』を描くことができる。ただ、もちろんエンターテインメント作品の書き手として、そのようなメッセージは読者に気付かれてはならないとも思っています。自分の伝えたいメッセージ性を読者に気付かれぬまま、物語としてどう面白く読んでもらえるものに仕上げるか。それを追究するところに、小説を描く面白さや醍醐味があるからです」