今回の改正法を全面的に支持してきたのは、宇都宮健児日弁連会長を頂点とする弁護士たちだ。しかし、そのなかで異論を唱える弁護士がいる。14年間で3000件以上の多重債務者の相談を受けてきた溝呂木雄浩弁護士(第二東京)は、“ヤミ金ハンター”として知られる多重債務処理のプロ。『破産は国民の権利だ!-借金生活脱出法』(法学書院)の編纂にも関わり、返せなくなったら速やかに手を挙げ、生活再建に取り組むべきだと日ごろから主張する溝呂木弁護士は疑問を呈する。
「多重債務対策で大切なことは、(1)自殺、(2)犯罪、(3)夜逃げ――この3点の防止に尽きる。そのためには、自己破産についてもっと社会が容認し、個人がリスタートできる環境を整えることが重要です。そのため、社会全体で破産は恥ずかしいことではないという啓蒙活動や教育が先決です」ところが、それを妨げるのが総量規制だと、溝呂木弁護士は指摘する。
「水際対策とも受け取られる総量規制は、実は“劇薬”。医療に例えれば、未病の人を病気にさせて、いきなり手術するようなもの」
溝呂木弁護士は、年間3万人以上の自殺者の多くが借金に苦しみ、夜逃げするものも少なくない。生活破綻を食い止める策こそが重要だと繰り返す。
三者に共通するのは、総量規制が借り手側に対し過度な縛りとなっている点だ。いきなり「年収の3分の1」という網をかけるのではなく、他の方策を模索していくべきではないか、というものだ。今後、施行以降は多重債務者救済の対応策が今まで以上に必要だろう。
ここで現在の“借金統計”を見てみよう。日本信用情報機構によると、消費者金融の利用者は10年4月末現在で1519万人。うち、5件以上の借り入れがある多重債務者は115万人という。年々減少傾向にあったがここへきてわずかながら増加傾向にある。また、日本貸金業協会のアンケート調査によると、年収の3分の1以上の借り入れ者は利用者の51.2%と、半数以上におよぶことが明らかになっている。新規借り入れが不可能になり、即座に困窮する人が500万人とも700万人とも想定されるゆえんである。