「企業秩序を乱した」と判断される「物差し」とは

スマートフォンで手軽にアクセスできるオンラインカジノは、利用者の摘発が相次ぐ現代の深刻な落とし穴です。

競馬などの公営ギャンブルは特別法で許可され、パチンコは「三店方式※1 」という仕組みで形式的に賭博罪を免れています。一方、オンラインカジノは、たとえ海外で合法的に運営されていても、日本国内から金銭を賭けて参加すれば日本の賭博罪※2 が適用されます。特に、その収益が海外へ流出し、反社会的勢力の資金源になっている可能性を警察当局が強く懸念していることが、他のギャンブル以上に厳しい目が向けられる最大の理由です。依存症のリスクは同じでも、オンラインカジノは明確な違法行為であり、極めて高いキャリアリスクを伴います。

そもそも、私生活の不祥事で会社は従業員をクビにできるのでしょうか。前提として、日本の労働法は勤務時間外の私生活への会社の介入を認めていません。企業「外」での行動は本来、労働者の私生活上の行為であり、使用者が懲戒権をもって臨むことはできないのが大原則です。

しかし、この原則には極めて重要な例外が存在します。それは、従業員の私生活上の行為が、もはや個人の領域にとどまらず、「企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有する」場合です。これは、会社の事業活動に直接的な影響を与えたり、企業の社会的評価を毀損したりする場合を指し、懲戒処分の対象となりえます。つまり、単にオンラインカジノに参加したという事実そのものではなく、その行為が「企業秩序」という一線を越え、会社に具体的な不利益をもたらしたかどうかが、処分の可否を分ける最初の分水嶺となるのです。

では、具体的にどのような場合に「企業秩序を乱した」と判断されるのでしょうか。裁判所は画一的な基準を用いるのではなく、3つの「物差し」を使い、事案ごとに処分の重さが妥当かどうかを総合的に判断します。そして、この判断基準の「相場」が、近年急速に、そして厳格な方向へと変化しつつある点に最大限の注意が必要です。

一つ目の物差しは、賭博行為そのものの悪質性です。お小遣いの範囲で数回楽しんだ、という程度であれば、それをもって直ちに懲戒解雇となる可能性は極めて低いでしょう。しかし、「消費者金融などから借金をしてまで数百万円単位の金額を賭けた」「数年間にわたり、生活の一部となるほど常習的に賭博行為を続けていた」といったケースでは、悪質性が高いと判断されます。特に、本人の意思だけではやめられない「依存症」に近い状態と見なされるほどの常習性は、反復継続するリスクが高いと評価され、極めて悪質な要素として処分の重さを左右する重要なポイントになります。

二つ目の物差しは、従業員の地位と職種です。会社でどのような立場にあるのか、どのような職務に従事しているのかも、処分の重さを判断するうえで重要な要素です。一般社員と、会社の「顔」として見られることの多い管理職や役員とでは、不祥事が起きた際に会社が受ける信用のダメージが大きく異なります。また、銀行員、証券会社の社員といった金融関係者、あるいは公務員、教員といった、職務の性質上、極めて高いレベルの倫理観と清廉性が社会から求められる職種の場合、その信頼を裏切る行為に対する評価は非常に厳しくなります。

三つ目の物差しは、行為の結果として、会社にどれほどの具体的な影響が出たか。典型的なのは、従業員が逮捕され、その事実が実名で報道されることで会社の名前も公になってしまうケースです。このような場合、「企業の社会的評価を著しく毀損した」と客観的に判断され、懲戒解雇が妥当とされる可能性は高まります。

注意すべきは、近年の司法の潮流として「報道されなくとも」会社の秩序違反が認められるケースが増えている点です。SNSの普及により、非公式な形でも情報が拡散しうる現代において、企業が受けるレピュテーションリスクは報道の有無のみでは測れない、という認識が司法にも広がりつつあるのかもしれません。過去の裁判例は大きなヒントになりますが、その傾向は今、大きな転換期を迎えています。

期間や金額によって裁判所の判断が変わる

かつて裁判所は、私生活上の非行による解雇に慎重でした。「横浜ゴム事件」(最高裁昭和45年判決)では、酒に酔ったうえでの住居侵入で罰金刑となった従業員の解雇が無効とされました。また「東京メトロ事件」(東京地裁平成27年判決)でも、自社車両内での痴漢行為という悪質な事案でさえ、解雇は認められませんでした。これらは、私生活上の非行が直ちに解雇に結びつくわけではない、というかつての司法の考え方を象徴しています。

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
日本の政治家がしょうもない失言を繰り返す本当の理由
「デジタル教科書」があれば紙の教科書は本当に必要ないのか?
次回のコンクラーベで「日本人のローマ教皇」が誕生する可能性はあるか
アメリカの半額以下…日本企業の初任給はなぜ安すぎるのか?
チームの未来に乾杯 ガンバ大阪社長 水谷尚人