イランの弾道ミサイルがイスラエル防御網を突破

2025年6月、イスラエルによる自国の核関連施設をはじめとする目標に対しての航空攻撃への対応として、イランは弾道ミサイルによる攻撃を実施した。これに対して、イスラエル側は国産システムやアメリカ軍が配備したものも含めた各種の弾道ミサイル防衛(Ballistic Missile Defense, BMD)システムにより応戦し、その際の動画がSNS上にアップされて話題となったことは記憶に新しい。そして、こうした動画の中には、イスラエル側が迎撃に失敗した弾道ミサイルが地上に着弾する様子を収めたものもあったことから、「迎撃が上手くいっていないのではないか?」といった意見もSNS上では散見された。

たしかに、弾道ミサイルはとてつもない速度で飛翔する兵器だ。たとえば、射程1000キロメートル級の準中距離弾道ミサイル(Medium-Range Ballistic Missile,MRBM)の最高速度は毎秒約3キロメートル(マッハ約9)以上とされており、これを撃ち落とすというのは至難の業のようにも見える。それでは、BMDはどのような仕組みでこれを迎撃するのか。

弾道ミサイルは、主に地上もしくは潜水艦から発射され、まずはブースターによって加速し、大気圏を離れて宇宙空間まで上昇していく。そして、加速終了後はブースターが切り離され、先端の弾頭が弧(より正確には楕円軌道)を描いて大気圏内へ再突入し、目標地点へと落下していくという仕組みだ。そして、基本的に一度発射された弾道ミサイルが大きく飛翔方向を変更することはない。ということは、弾道ミサイルが発射された方向や速度、高度といった情報さえ正確に入手することができれば、迎撃ミサイルを予測される軌道上に投入し、命中させることができる。これがBMDの大まかな考えだ。

これを実現するため、BMDは多数のセンサーと迎撃システムを組み合わせて実施される。まず、宇宙空間に配置された衛星が弾道ミサイル発射時に生じる熱を高精度赤外線センサーにより探知する。これにより弾道ミサイルが発射されたという情報(早期警戒情報)が瞬時に地上へと伝達され、地上配備型の早期警戒レーダーや洋上のイージス艦(※1)が装備するレーダーといった各種センサーによる探知が開始される。そして、水平線もしくは地平線の向こう側から現れた弾道ミサイルをレーダーで捕捉すると、ここで得られたデータをもとに迎撃ミサイルが発射される。

※1:高性能レーダーとコンピュータを中核とし、多数の目標を同時に探知・追尾して対処する、米海軍開発の艦載戦闘システム。「イージス」の名は、ギリシャ神話に登場する神の盾「アイギス」に由来。海上自衛隊では1993年に初のイージス艦「こんごう」が就役。

この迎撃ミサイルには2つの種類があり、一つは弾道ミサイルがブースターを分離し、弾頭が宇宙空間を飛翔している「ミッドコース段階」で迎撃するもの。たとえば、イージス艦から発射される「SM-3」がその代表例だ。そしてもう一つは、弾頭が大気圏内へと再突入して目標地点へと落下する「ターミナル段階」で迎撃するというもので、こちらは地対空ミサイルシステムの「PAC-3」や「THAAD(終末高高度防衛システム)」といったものが挙げられる。

高額な迎撃ミサイルをあえて使わない選択も

こうした迎撃システムを組み合わせて配置することによって、一方が撃ち漏らしても、もう一方が迎撃する、という形で多層的な迎撃態勢を構築し、成功確率を高めることができる。

今回のイスラエルの例でいえば、ミッドコース段階用に「アロー3」、ターミナル段階用に「アロー2」や「ダビデ・スリング」と呼ばれる迎撃ミサイル(いずれもアメリカの資金・技術供与を受けて開発されたイスラエル製の迎撃ミサイル)が配備され、実際に戦果を挙げている。アメリカ海軍が地中海などに展開させたイージス艦からSM-3が発射されたほか、イスラエル国内に展開されたアメリカ陸軍のTHAADも投入されており、非常に多層的な防衛態勢がイスラエル上空に展開されていた。よくメディア等で名前が挙がる迎撃システム「アイアンドーム」は、低高度を低速で飛来するロケット弾などを迎撃するためのもので、今回の戦闘では大きな戦果を挙げていない。

それでは、このように多層的な防衛態勢が敷かれていたイスラエルにおいて、冒頭紹介したような「弾道ミサイルの迎撃は失敗した」という評価は妥当なのだろうか。今回の12日間にわたる戦闘で、イランはイスラエルに向けて550発の弾道ミサイルと1000機の自爆型無人機を発射したが、イスラエル軍は約90%を迎撃したと主張している。特に自爆型無人機に関しては、飛翔速度が遅いということもあって、イスラエルに向かう途中でほぼすべての機体が戦闘機や地対空ミサイルにより撃墜されたという。

肝心の弾道ミサイルに関しては、イスラエル軍は86%の迎撃に成功したと発表している。550発のうち77発が着弾した計算になるが、「迎撃されずに着弾した」というのは、必ずしも迎撃に失敗したということを意味するわけではない。たとえば、弾道ミサイルをレーダーで追尾した結果、予測される落下地点が人口密集地や重要軍事施設といった重要防護対象地域ではないことが判明したとする。この場合、あえて迎撃を行う必要はない。迎撃ミサイルは一発当たりの価格が高額であり、弾数にも限りがあるため、飛来するミサイルすべてを迎撃することは非合理的であるからだ。そのため、着弾したミサイルには、意図的に迎撃しなかったものと、迎撃網をかいくぐってきたものとが混在していると考えられる。

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