ローマ教皇は個人崇拝の対象ではない
バチカンは世界に14億人弱の信者を抱えるカトリック教会の総本山で、ローマ教皇はそのトップに君臨する。中世に欧州で絶大な権力を握っていたが、宗教改革とフランス革命の挑戦を受け、19世紀末~20世紀にそのあり方を大きく変貌させて現代に至る。教皇とはどんな存在なのか、宗教パワーとしてのバチカンは世界政治にいかなる影響を及ぼしているのか。まずはそのリーダーシップに着目してみたい。
バチカンは世界最大の官僚機構にして、最強の組織力を誇る。聖職者たちはヒエラルキー構造をなしていて、トップの教皇とこれに準ずる枢機卿、大司教、司教が存在し、その末端には教区司祭と信者がいる。アジア辺境の農村まで世界中の情報を吸い上げ、バチカンで統括管理するシステムがある。
こうしたヒエラルキーに対して、今どき時代遅れであるとして「教皇位廃止論」が飛び出している。しかし、その論拠として挙げられている「教皇権への個人崇拝」は不正確だ。21世紀の現在、教皇は必ずしも個人崇拝の対象ではない。あくまで同組織のトップ、企業のCEO的な存在だと考える。
ローマ教皇は国王などとは異なり、コンクラーベという教皇選挙で選ばれる。終身制であり、しかも選挙が密室で行われるという点については民主的とはいえないが、政界やメディア、他国からの介入を避けるためという理由がある。
20世紀以降のバチカンは中立を貫き、戦争や紛争において仲介的な役割を果たしてきた。戦時には戦傷者の介護、戦死者の埋葬などの人道的な支援活動も行った。現国際連合の前身である国際連盟の設立理念を提示したことから、バチカンは「聖座」と称され、教皇の発言は国連の活動に大きな影響力を持つ。
世界最小国家※1でもあるバチカン市国には世界中のカトリック教会を統括する官僚組織が凝縮されており、バチカンの国籍と同時にイタリアなど世界各国の国籍を持つトランスナショナルな人材が集結している。彼らは宗教の領域にとどまらず、グローバルかつ多面的な影響力を持つ。特に20世紀後半以降、そのパワーは政治経済、雇用や福祉、安全保障、また科学技術や環境問題にも及んできた。
※1:バチカン市国在住者は900人弱で、国籍保有者は約600人。面積は約0.44平方kmで、これは東京ディズニーランドや皇居よりも小さい。
地理的にも欧米だけでなく、南米、アジア、アフリカ、さらに中東もバチカン外交には重要な地域である。イスラム教をはじめとする異宗教との対話は、中東に居住する少数派のキリスト教徒(カトリックでなく主に東方教会系)の命を守るために欠かせない。また宗教間の対話は、テロや安全保障など重大な国際政治の一分野にも関わってくる。
「有力候補」たちが選ばれなかった理由
企業のCEOと同じで、教皇になる人物には、最初からエリート街道を突き進んできたタイプと、現場叩き上げタイプ、またその両方を兼ね備えたタイプなどに分類することができるだろう。教皇になるまでの枢機卿のキャリアはさまざまであり、コンクラーベには多様な人材が集う。今回参加した枢機卿の出身国は71カ国に上り、前回(2013年)の48カ国を大きく上回った。ローマ教皇庁はさながら多国籍企業のようだともいえそうだ。
フランシスコ前教皇は、バチカン内の官僚職位は決して高くなかった。ブエノスアイレスのスラム街での救貧活動など、現場叩き上げのキャリアで教皇に選出された。所属先のイエズス会は現場主義の修道会としても知られる。離婚経験者やLGBTQの教会儀式参加を容認したほか、女性の幹部登用、同性カップルの祝福などの改革で信者からの人気が上昇したが、保守派の幹部や枢機卿などからは反発があった。
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