1勝3敗1引き分け。今年4月の「第2回電王戦」でプロ棋士はソフトに負け越した。コンピュータのデータ解析能力は、将棋のような複雑な世界でも人間を上回りつつある。こうした「ビッグデータ」はビジネスではどう活かされているのか。各社の最新事例を探った──。
「一般の方々からの情報を気象予報に活用することは、能力の高い気象技術者ほど、抵抗感があったと思います。『自分たちは気象のプロだ』というプライドが、邪魔をしてしまうんです」
ウェザーニューズ(WN)の草開千仁社長は、2004年から始めた「サポーター制度」をこう振り返った。
天気予報は1995年より自由化され、国の許可を受けた事業者は、独自の予報を発表できるようになった。だが各社は原則として気象庁から提供される「アメダス」のデータをもとに予報を行う。データが同じなら予報の内容も大きくは変わらない。WNでも、99年にドコモの「iモード」で個人向けの情報提供を始めたが、サービスの差別化が難しかった。そのとき目を付けたのが会員から寄せられる「桜の開花情報」だった。WNでは「開花予測」の提供とあわせて02年頃から桜の写真を投稿できる掲示板を設けていた。「うちの近所ではもう満開です!」。そんな投稿が集まるうちに、「開花予測」のページより、掲示板へのアクセスのほうが多くなるようになった。
開花予測は、約1300カ所の観測所をもつアメダスのデータから計算する。ただし観測所は約21キロ間隔で設置されており、詳細な予報は市町村単位が限界だ。ユーザーは「あの名所はどうか」といった詳細な情報を求めて、掲示板を訪れていた。この経験をもとに04年から「さくらプロジェクト」を開始。全国の開花情報をユーザーから集める定番のサイトに成長した。そして、「これは桜だけではないぞ、と思った」(草開社長)。
まずはケータイサイトの有料会員を「サポーター」として、現在地の天気をリポートしてもらう仕組みを整えた。GPS機能が普及し、リポート地点を正確に把握できるようになると、具体的な展開が拡大。その1つが08年に始めた「10分天気予報サービス」だ。10分ごとの天気を1時間先まで確認できるというサービスで、サポーターから「影はっきり」「ポツポツ」「パラパラ」「ザーザー」などのランクで現在地の天気情報が寄せられる。それらを予報に反映し、より細かい時間単位での気象予報を提供する。人によって判定にはバラツキがありそうだが、「明らかな間違いは1万通のうち8通程度」(草開社長)。サポーターはいわば「動く観測拠点」になるわけだ。