1勝3敗1引き分け。今年4月の「第2回電王戦」でプロ棋士はソフトに負け越した。コンピュータのデータ解析能力は、将棋のような複雑な世界でも人間を上回りつつある。こうした「ビッグデータ」はビジネスではどう活かされているのか。各社の最新事例を探った──。
「ビッグデータ」へのアプローチは、「データを増やす」だけではない。コンピューティングの技術とプロの発想を組み合わせることで、他社を圧倒している事例もある。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、自然エネルギーの予測分野で業界をリードしている。科学システム事業部エネルギービジネス推進部の福田寿部長は、「気象予報士」の資格をもつ。興味が高じて、大学院まで気象の研究を重ねたが、「気象だけでは難しい」との考えから、90年に自動車メーカーに就職。研究所で気象とは離れた仕事をしていた。だが興味は尽きず、94年に気象予報士の資格を取得。その後、気象ビジネスの強化に動いていたCTCに転じた。
当時、CTCではコンピューティングの高い技術を活かし、工場からの排煙の流動解析などを手がけていた。まだ事業は限定的だったが、東北電力から「風力発電の発電量予測をしてほしい」との依頼を受けたところから、ビジネスが拡大し始めた。
当初は気象庁のデータなどを使っていたが、精度向上のために独自の観測機器を追加導入。その後、自然エネルギーへの関心が高まるにつれ、風力発電のコンサルティング事業が伸長していく。いまでは東北電力管内を対象にした30分単位の予測精度で誤差10%以内。その精度の高さから、金融機関の融資判断にも活用されている。日本国内の風力発電事業では、50%以上でCTCの関与がある。
事業を担うメンバーもこの5年で約30人へと倍増した。このうち気象予報士の有資格者は10人程度。現在では、風力発電だけでなく、太陽光発電を組み合わせた場合の発電量予測なども手がける。福田さんはいう。
「分析技術は90年代後半には確立していました。ただこの数年で計算などの環境が急速に整ってきた。エネルギーを効率化するスマートグリッドなどへの関心も高まるにつれて、気象ビジネスが複合的に絡むようになった」
・約10人の気象予報士を抱える
・国内風力発電の50%超に関与
・予測は国内最多の180地点
・羽根の疲労や風車音の解析も