30年間デフレで節約生活に浸った人はお金を使わない

永濱さんは「実質賃金がプラスになるかわからない」と話す。春闘の賃上げには定期昇給(定昇)分の2%近くが含まれており、ベースアップ(ベア)はそれを差し引いた分となる。さらに、物価上昇の影響も除く必要がある。物価上昇が続いており、実質賃金がプラスになるのかわからないというわけだ。さらに、永濱さんはこう話す。

「新卒の賃金を上げる一方で早期退職を募集する動きがあり、賃金のフラット化が起きています。また、労働時間を規制する影響で残業を減らす動きがあるほか、一部の企業では賃上げをする一方でボーナスを減らすところもある。企業は目立たないところで賃上げを抑制しています」

この指摘は、所得水準が低い新卒者の総収入を増やして、所得の高い年配者を減らすことで、全体の賃金構造を平準化することを意味する。さらに、残業代の減少やボーナス削減は、賃金が上がっても年収が増えない可能性を示唆する。さらに、国策の子育て支援金を捻出するため、国民負担が増えるほか、再生可能エネルギー普及で電気料金に上乗せする賦課金も増え、負担感は増す。

こうしたなかで、永濱さんは「賃金が上がっても財布のひもが緩むのでしょうか。デフレマインドが定着しています。デフレ世代が交代しないと消費行動は変わりません」と話す。

消費行動については、若い時に不況を経験してきた世代は生涯にわたり価値観が変わらないという論文が米国で出ているという。日本ではバブル崩壊後にデフレ経済が長く続き、節約志向の生活をしてきた人が少なくなく、賃金が多少上がっても、気前よく消費を増やすのかは懐疑的にならざるをえないというわけだ。

最近の日経平均株価の高値更新についても、消費への影響は限定的とみられている。永濱さんは「日本経済と日本株は別もの。日経平均株価は、日本企業のなかでも上澄みの225社がどれだけ世界で稼いだかという指標です」と指摘する。

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連合が春闘の賃上げ回答を集計・発表していることについて、「最終集計に向けて賃上げ率が下がっていく」と話すのは、みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部の酒井才介・主席エコノミスト。

大企業に比べ、中小企業は賃上げ率がそれほど高くないところが多く、集計が進むにつれて中小企業の回答が多く反映されていくからだ。酒井さんは賃上げの実態について、次のように指摘する。

「日本全体では組合もないような中小企業も含めると、春闘だけを見ていてもわかりません。厚労省の毎月勤労統計調査で、夏ごろの公表資料を見て確認する必要があります。賃上げの現実は厳しいだろうと思います」

実質賃金については過去2年マイナスだったが、今年後半、おそらく10~12月期にはプラスになるとみている。ただ、力強いプラスとはみていない。酒井さんは次のようにも話す。

「消費も回復に向かうだろうとみていますが、これまでのマイナスを取り戻すほどではありません。消費は回復に向かっても、好循環とまでは言えません」

そんな見方をしている酒井さんが、懸念材料というのが円安だ。「思ったよりも円安が長引き、物価上昇率が下げ渋るかもしれません」という。

お金は金利の高い国に流れるので、日本より米国の金利が高いとドル高・円安となる。日米の金利差が縮小に向かい、円高・ドル安に向かうかもしれないとみられてきたが、米国が利下げに転換するのが不透明な状況になっているほか、日本も利上げに慎重な姿勢となると、シナリオが狂ってくる。