異常な円安に対して、なぜ日銀は手を打たないのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんとフリーアナウンサーの大橋ひろこさんの共著『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)より一部をお届けする――。

※数値は書籍刊行当時のものとなります。

日銀は「糾弾」を恐れている

【大橋ひろこ(以下、大橋)】日銀は、「賃金上昇を伴う」インフレ目標達成が重要だとして継続的な賃金上昇が確認できるのを待っているのですが……。

【エミン・ユルマズ(以下、エミン)】それもあるでしょうし、たぶん日本のセントラルバンカーにはバブル崩壊の“トラウマ”が宿っているのでしょう。政策決定メンバー全員が引き締めを嫌がる傾向が見て取れます。だから、「せっかく景気が良くなってきたのに、あなたたちのせいで、何もかもが台無しになりました」と糾弾されることを、徹底的に恐れているわけです。

【大橋】その前例は2000年の速水優・日銀総裁ですね。同じてつを踏まないようにしようとしています。しかし、あのときはインフレではなかったのに利上げしてしまった。いまとは状況が異なります。

YCCに否定的な金融関係者は多かった

【大橋】エミンさんは日銀が打つべき手立てをどのように考えていらっしゃいますか?

【エミン】YCC(長短金利操作付き・量的質的金融緩和)のなかの上限撤廃と、マイナス金利の早期解消でしょうか。だから、ある程度の引き締めとは言わないけれども、それなりの姿勢だけでも見せないといけない。

※2024年3月に日銀はマイナス金利政策の撤廃を決定。

【大橋】2016年のYCC導入当時は、うまくやれるわけがないとの声が大きかった。

YCC政策は、フラット化したイールドカーブのスティープ化を進めることが目的で、短期金利だけでなく、長期金利である10年物国債金利が0%程度で推移するよう長期国債の買い入れを調整するものです。

中央銀行の基本の金融政策は、短期金利を上げたり下げたりすることで金融の引き締めと緩和を行うものですが、日銀は長期金利のコントロールに踏み切りました。

本来、長期金利は市場に任せるのが基本とされていましたので、YCCに否定的な金融関係者も多いですね。

手をこちらに向け、停止してほしいとハンドシグナルを出す男性
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YCCに否定的な金融関係者は多かった(※写真はイメージです)

23年10月の日銀の金融政策決定会合で、長期金利の誘導目標を「上限1%をめど」に見直し、YCC政策の運用をより柔軟化しています。