若手社員が上司として求める人物像はどのようなものなのか。人材研究所社長の曽和利光さんは「今では、雇用形態から人事制度、異動の仕組みまで、あらゆるところで『自由と自己責任』が広がり、日本の企業社会の常識となった。そのような社会の中では『最後は君が責任を取るのだから、自分で選んだらいいよ』と言うほうが誠実だ」という――。

※本稿は、曽和利光『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30 なぜこの言い方がNGなのか』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。

NGワード「失敗しても責任は私がとる」

明治安田生命保険が毎年全国の新入社員となる人を対象にしたアンケート調査「理想の上司ランキング」というものがあります。

男性部門では、現在まで7年連続でタレントの内村光良さん(ウッチャン)が1位でした。「親しみやすい」「優しい」イメージが選出理由の70.5%を占めています。女性1位の水卜麻美アナウンサーも同じ理由が61.1%でした。(ちなみに「理想の新入社員」男性一位は大谷翔平さん。これは誰が見ても納得、ですね)

約20年前の2000年代を振り返ると、「闘将」と呼ばれた故星野仙一監督らが同様のランキングの常連でした。「親しみやすい、優しい」と「闘将」ではイメージが大きく異なるわけですが、こんなことからも若手社員が上司として求める人物像がかなり変化してきていることがわかります。

赤い仮面とマントを付けた男性
写真=iStock.com/Deagreez
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「部下の一生の面倒を見る」は現実的か?

私は生まれが愛知で育ちが関西だったこともあり、中日→阪神と監督を務めた星野さんのことは、ずっとファンでした。そのイメージは、鉄拳制裁も辞さない厳しさと、その裏側にある「最後の責任はオレが取る」という力強い包容力、面倒見の良さでした。

楽天の監督時代、日本一となったあと、メジャーに挑戦したいという田中将大投手を、自軍の戦力が大幅に減ることが確実であるにもかかわらず全面的に支援したことも、記憶に残るところです。自分の指導についてきたメンバーの人生すべてにコミットする。誰もがその姿にれ込んだものでした。

私はこの星野監督の人間像、上司像は今でも十分通用すると思います。

しかし、それは「本当に厳しさと面倒見の良さが両立するなら」です。星野監督の社会的影響力や人脈、財力があれば、確かに「部下の一生の面倒を見る」という言葉も現実的かもしれません。

また、四半世紀前なら、組織で働く会社員の上司でも、「ちゃんと会社の方針に従っていさえすれば、悪いようには絶対にしない」「責任は自分が取る」と確信を持って言えたかもしれません。

しかし皆さんもご存じの通り、当時の「約束」はのちの日本の「失われた数十年」の中で反故ほごとなってしまいました。そんな今、「お前の人生の面倒は見るから」と言える人はどれだけいるでしょうか?