メンタル休職者は10年前の1.8倍に
従業員のメンタル不調は増加傾向にあり、特に若手社員である20代、30代で増えています。
公務員に限った調査ですが、地方公務員安全衛生推進協会の調査によると、令和4年度の「精神及び行動の障害」による長期病休者数は、10年前の約1.8倍になりました。
年収600万円の社員が半年間休職した場合、その業務を引き継ぐ同僚の残業手当など、必要となる追加コストは422万円にものぼるという内閣府の試算もあり、職場で休職者が発生するということは、物理的・金銭的な負担が生じるものです。
「ドクターストップ」の証明書のはずが…
私はこれまで50団体以上の省庁・企業の産業医を務めるとともに、都内の豊洲と月島でメンタルクリニックを運営しています。診断書を受けとる「企業側」と、メンタル不調者へ診断書を発行するメンタルクリニック側、双方の立場にいますが、このメンタル不調による「休職診断書」が、適切な診断と判断により発行されているとは思えない事例に、少なからず遭遇します。
休職診断書とは、一言で言うと「このビジネスパーソンをこのまま働かせていたら危ない」というドクターストップの証明書ですが、いっけん休職する必要がない人にまで発行されている側面が拭えないのです。
私の産業医先であった事例です。ある社員が休職診断書を持参したため、産業医面談を実施しました。私がこの方に「診察した医師からは、休職したほうがいいと言われましたか?」と聞くと、次のような回答がきたのです。
「休職したいですか? お薬も出せますけど欲しいですか? と聞かれました」
この休職診断書を出した医師は、この社員の症状をみて診断書を出すべきか判断しているのではなく、「休職したい」というこの社員の申し出を、そのまま受け取って発行しているだけ、ともいえます。この医師には、社員の治療や職場への適応を支援する意図はなく、社員の希望する長期休養を口添えするための診断書作成に専念していると判断せざるを得ません。