以前は「休みたくない」と働く人が多かった
ひと昔前は「精神科を受診すること」自体が、多くの人にとってハードルが高いものでした。さらに、昔は産業医として職場で面談をしていると、むしろ「休みたくありません」と社員さん側が休職を拒否することも多く、こちらから「あなたのうつ病は重いほうですので、今は療養に専念したほうが長期的にみて健康な生活を送れると思いますよ」などと説得するケースもあったくらいです。
ここで事例をご紹介しますと、私が診察したある患者さんは、起業家を多く輩出することで有名な企業の社員でした。「休職するとこの会社には居づらくなってしまう。職場復帰はさせてもらえるけど、その後面白い仕事を任せてもらえないのがわかってるから、休めない」とのこと。
この方はメンタル的にはとても悪い状態で、私は休職を勧めましたが、本人の希望で休職せずに治療を続ける道を選びました。結果、時間はかかりましたが状態は徐々に快方に向かい、その後、結局は転職の道を選ばれました。
通院しながら治療することは十分可能
近年では精神科受診のハードルが下がり、患者さんの症状も比較的軽症な段階で、良くも悪くも「カジュアルに」受診しているように感じます。もちろん重症であれば休職が適切ですが、症状の程度によっては必ずしも休職は必要ではなく、通院しながら仕事を続けることも可能でしょう。
例えば、翌日の仕事が気になって夜眠れないのであれば、睡眠環境の見直しや睡眠薬や抗不安薬を試してみて、睡眠を十分確保できるようになれば、日中にクリアな頭で仕事に取りかかれたり、ネガティブ思考を払拭できてメンタルが改善するケースも多いのです。
また、日中の倦怠感や熟眠感欠如が主訴の場合、うつではなく睡眠時無呼吸症候群が原因となっていることもありますが、産業医面談で社員さんから伺う診察場面の状況からは、そのあたりを丁寧に診断しているとは考えにくいケースも散見されます。