「ロスジェネ世代はほとんど所定内給与が増えていない」
今年の春闘(春季生活闘争)は、労働組合側の高い賃上げ要求に対して企業側から満額回答が続出した。「引き出した回答は高い水準を維持している」と芳野友子・日本労働組合総連合会(連合)会長も会見で評価した。
連合によると、今年の賃上げは速報値の平均で5%超と33年ぶり高水準となった。日経平均株価の最高値更新など最近の株高もあり、消費マインド好転に期待もある。このまま景気がどんどん拡大していく……という楽観的な見方をする人もいる。
ところが、そんな空気に水を差すように、賃上げは消費回復の好循環につながらない、とみる専門家は少なくない。実際、個人消費は国内総生産(GDP)の約6割を占める主役だが、物価高もあり低迷している。
賃上げでも、消費が好転しないのはなぜなのか。
長く続いたデフレで節約志向が浸透してしまっていることや、物価高の影響を差し引いた実質賃金の目減りが賃上げでも力強くプラス転換するのは難しいとみられることがある。さらに、賃上げを年代別に見ると、働き盛りでボリュームゾーンの中間層の賃上げが弱く、全体の消費回復につながりにくいという指摘もある。
今年の春闘を少し詳しく振り返ってみよう。労組の上部団体となる連合は傘下労組の賃上げ状況について、第1回集計結果が平均で5.28%と発表。第2回集計結果もほぼ同水準の同5.25%。1991年の5.66%以来の5%超えとなった。今年の賃上げは大企業のみならず、中小企業への波及も、全体を見るうえで注目されていた。
こうした一般的な見方に対して、「今年の賃上げ効果は中小企業よりロスジェネへの波及が重要」とレポートにまとめたのが第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミスト。そのリポートはこう指摘する。
《年齢階級・学歴別にみると、(賃上げの)けん引役は20代の若年層と60代以降のシニアであり、むしろ30代後半~50代前半のいわゆるロスジェネ世代では30年ぶりの賃上げにもかかわらずほとんど所定内給与が増えていない》
これは約5万の事業所をカバーする厚生労働省の賃金構造基本統計調査を分析した結果だ。「20代は少子化で人口が少なく、労働市場で流動性も高く、賃金が上がりやすい。60代以降は雇用延長などで、シニアになる前の賃金の抑制要因となっている能性があり、総賃金でみれば増加要因と前向きにとらえられるか微妙だ」と永濱さんは指摘する。
物価高で目減りしている実質賃金はどうなるのだろうか。