30年かけてついに山が動いたが…

今年の春闘で賃上げ率は平均で5.28%に達した。33年ぶりの賃上げが実現した。主要な製造業では、労働組合の賃上げ要求に対して満額、要求以上の回答をした企業も多い。大企業は利益や内部留保金などを活用した。過去30年以上、伸び悩んだわが国の賃金情勢に変化の兆しが出始めた。

わが国経済がインフレ状況に入ったこともあり、企業経営者にとって賃上げの重要性が高まった。物価上昇から従業員の暮らしを守る。優秀な人材を多く確保し成長を実現する。そのためには、それなりの賃上げは必要不可欠だ。賃上げができないと、事業を継続するために必要な人員数の維持すら難しい懸念もある。

今後、賃上げが続けられると、わが国GDP(国内総生産)の53%を占める個人消費は持ち直し本格的な景気回復も期待できる。賃上げ継続のための課題の一つは、中小企業の賃上げ支援強化だろう。

今回、公正取引委員会は勧告を強化したが、依然として中小企業の価格転嫁は難しい。その状況を打開するため、官民総出で中小企業の賃上げ環境を整備することが急務だ。

物価上昇率を上回る賃上げが実現した

かつてドイツは労働市場と社会保障制度の改革を同時に進め、今日の経済成長の基礎を築いた。政府は失業などのセーフティーネットを強化すると同時に、学びなおしや規制緩和を進め、より多くの人が成長期待の高い分野で就業を目指すよう、痛みを伴う改革でも積極的に推進する姿勢が必要だ。

今年の春闘で、全体(771組合)としての賃上げは1万6469円、率にして5.28%に達した。昨年の第1回回答集計結果(3.80%)を大きく上回った。5%を超える賃上げは、1991年の5.66%以来約30年ぶりだ。

記者会見する連合の芳野友子会長=2024年3月15日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
記者会見する連合の芳野友子会長=2024年3月15日、東京都千代田区

賃上げは、“ベースアップ”と“定期昇給分”の2つからなる。ベースアップとは、定期昇給などの土台である基本給の底上げをいう。定期昇給〔年齢(年功)に応じた毎月の給与引き上げ〕と、区分して報告した654組合のベースアップは3.70%だった(定期昇給分を含むと5.51%)。前年同時期のベースアップ実績(2.33%)を上回った。

ベースアップは、足許の物価(2月半ば東京都区部の消費者物価指数は前年同月比2.6%上昇)を上回った。わが国の個人消費にいくぶんかプラスに働くだろう。