野球監督には、どのような素質が必要なのか。ジャイアンツの内野手として活躍し、監督時代はヤクルトスワローズなどを日本一に導いた広岡達朗さんは「ジャイアンツの阿部慎之助新監督に私はとても期待している。阿部には前任監督の時代にはなかった『ジャイアンツらしさ』を感じる」という――。

※本稿は、広岡達朗『勝てる監督は何が違うのか』(宝島社)の一部を再編集したものです。

試合前、メンバー表交換に臨む巨人の阿部慎之助監督=2024年4月18日、甲子園
写真=時事通信フォト
試合前、メンバー表交換に臨む巨人の阿部慎之助監督=2024年4月18日、甲子園

世間を騒がせた「罰走」は無駄なのか?

阿部新監督の野球観とはどのようなものなのか?

たまたま高校時代からの縁があったこともあって、彼の行く末については、私としてもとても興味深かった。だから、彼が現役を引退してからは阿部に関する報道には特に注目していた。

ある日、スポーツ新聞を読んでいて、「ほぅ」とうなった。

阿部が二軍監督時代のことだ。プロアマ交流戦において、ジャイアンツの二軍は早稲田大学に敗れた。その試合後、彼は選手たちに罰走を命じた。

大学生相手に6対9で敗れた試合後、阿部はベンチ入りしていた全選手を集めて、PP(両翼ポール間をランニングする練習メニュー)を命じたという。この試合で9四死球を与えた投手陣は15往復、それ以外の選手は10往復だった。

この一件が大々的に報じられると、海の向こうのダルビッシュ有がTwitter(現・X)で反応。こんな発言を残している。

「自分が日本ハムに入った2005年より前ぐらいから当時のコーチたちと半ば喧嘩しながらも、無駄なランニングを排除していったのが現オリックス中垣征一郎さんです。球団首脳にも理解があったから2005年にはすでに日本ハムには無駄なランニングがなかった」

それでも「ドンドン罰走をやっていきたい」

阿部の罰走に対して、暗に「無駄なランニング」と断じたのである。さらに、「才能のない選手の場合、試合で活躍するには走り込みは必要では」という、ファンからのツイートに対してはこんな意見を開陳している。

「逆にそれで才能のある選手がかなり潰されています。そもそも自分が走り込み、投げ込みを高校、プロとしていたらまずここにはいません。本来なら自分より才能のある同級生はもっといたはずです」

やはりここでも「走り込み信仰」に対して批判的な意見を述べている。それでも阿部は動じなかった。私としても、ダルビッシュに対しては、「正しいことを言って何が悪いのだ?」という思いだった。阿部は言った。

「選手たちには『オレたちはこれだけ厳しい練習を積んできたんだ』と自信をつけてほしい」

世間が騒いでいる中で、このように平然と語ったのである。ダルビッシュの発言もあり、世間からは「前時代的だ」とか「パワハラだ」という批判も多かった。それでも阿部は動じなかった。その年のオフには、こんな発言も残している。

「若手選手には、『絶対に二軍に行きたくない』と思ってもらうように、これからもドンドン罰走をやっていきたい」