預貯金5000万円超でも長男85歳時点で残高-107万円

父親は諦め気味に言いました。

「もう普通に働くのは難しいのではないかと思います。今後、本人が働かなくても生活していけるのかを分析してください」

筆者の講演では、ひきこもりなどの子供が万が一、生涯働かなくても生活していけるように、いろいろな工夫についてお話しています。それを聞いてご相談に来られたようです。

「わかりました。山下様からいただいたデータを基に、ご長男が85歳になるまでのシミュレーションを作成してみましょう」

私はいただいたデータを基に、将来の家計状況をシミュレーションしていきました。最悪のケースを考え、ご長男はまったく仕事をしない、という設定です。

私は分析結果を見ながら答えます。

「そうですね。妹さんとの遺産分割(退職金などを含む山下さん将来の最大預貯金4685万円)の状況にもよりますが、不可能ではないようです」

山下さんの現在の預貯金は3100万円で退職金は2000万円。4年後の60歳からは再雇用で65歳まで勤務できそうです。推定死亡年齢は、山下さんが84歳、妻89歳。親子3人での生活費(妹は独立するという前提)は山下さんのリタイア後も現在と同じ年額300万円(月25万円)、親が他界した後の長男のひとり暮らしでは年額105万円。長男の遺産割合を5割として、長男が自宅に住むという条件下で85歳の時点で長男の預貯金は107万円の不足となる結果でした。

写真=iStock.com/wing-wing
※写真はイメージです

数字を見た父親は言いました。

「そうですか。では、(長男が85歳時に赤字にならないよう)娘には遺産割合に関して少しがまんしてもらうように話をしないといけませんね」

妹に当たる長女は、この春学校を卒業し、無事に就職したそうです。長女とは同居ですが、すでに経済的には自立できています。それだけに、長男は余計に焦りを感じているのかもしれません。

さらに父親は続けます。

「では、遺言書を作成しておいた方がよいでしょうか」
「う~ん。将来的には必要になるかもしれませんが、まだ早いのではないでしょうか。財産の内容も変わっていきますし」