酪農界が抱える本質的な問題

ここで改めて酪農家から反発された私の主張を紹介したい。

①日本の酪農は輸入穀物の加工業になっている

多くの国民は、酪農から牧草をはむ牛を想像する。酪農に関する記事には、広大な草地で放牧されている牛の写真が掲載される。しかし、放牧されている牛は2割に満たない。ほとんどは、狭い牛舎の中で、また首をつながれたままで、アメリカ産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べている。栄養価が高いので乳量が上がるからだ。

1990年代以降土地が広い北海道でも配合飼料依存が高まっている。北海道で草地による放牧や自給飼料生産が行われているのは、配合飼料多投による病気の発生を少なくするためだ(つまり配合飼料が“主”で自給飼料生産は“従”の役割に過ぎない)と指摘する専門家もいる(※)

JA農協は、酪農家が生産した生乳を販売するだけではなく、アメリカから穀物を日本へ輸出し、これを加工して付加価値を付けた配合飼料を、酪農を含めた畜産農家に販売することで、利益を得た。生産物と資材の販売の双方向で二重の手数料を稼いだのである。

アメリカは牛肉については自由化や関税削減を強く迫ったが、バターを主体とする乳製品については、自国が多く生産するチーズの副産物であるホエイを除いて、関税引き下げを求めなかった。日本の酪農を維持して穀物を輸出した方が有利だからだ。日本の酪農については、JA農協とアメリカ穀物業界は利益共同体である。被害者は、高い牛乳乳製品を買わされる日本の消費者である。

※1 柏久・京都大学名誉教授の編著になる『放牧酪農の展開を求めて』(日本経済評論社2012年)112ページ参照。

②生乳廃棄が「高い乳価」維持のために行われている

生乳を廃棄したり減産したりしている。しかし、過剰なら価格が下がるはずなのに、乳価は2006年に比べ5割も高い。酪農界が懸命になって守ろうとしているのは高い乳価である。

脱脂粉乳の過剰在庫が増加しているというが、過剰なのに価格は下がらない。下げると脱脂粉乳を原料とする加工乳の価格が下がって、飲用乳や乳価も下がるからだ。

国民は納税者として多額の負担を酪農に支払っているのに、消費者として価格低下の利益を受けることはない。円安になった今でも、日本の飲用牛乳の値段はアメリカの倍もしている。

③苦境の原因は、輸入穀物依存の経営にある

輸入穀物の加工業だと言ってよい今の酪農経営は、穀物の国際価格の動向に影響される。しかし、最近まで穀物価格は低位安定していた。副産物のオス子牛価格も3万円が15万円ほどになった。このため酪農家の所得は2015年から5年間1000万円を超えた(2017年は1602万円)。穀物の国際価格は大きく変動する。輸入穀物依存の経営を選択したなら、価格高騰時に備えているべきだ。

経営が好調な時は黙っていて、穀物の国際価格が高騰したときだけ政府(納税者である国民)に補塡ほてんを要求するのはフェアではない。マスメディアが過去の高収益を紹介しないのも間違っている。

写真=iStock.com/Aaron Yoder
※写真はイメージです(アメリカ、インディアナ州のトウモロコシ収穫の様子)

いまこそ日本の酪農を見直すべきだ

日本の乳価は欧米の3倍、1頭当たりの乳量も世界最高水準だ。それなのに、1年だけの国際穀物価格上昇で離農者が増加するなら、今の酪農は見直すべきだ。

輸入穀物依存の酪農は、国際穀物価格の一時的な上昇だけで経営が存続できなくなっていると主張している。まして穀物輸入が途切れる食料危機のみならずアメリカのトウモロコシ生産が減少する際には、存在すらできなくなる。