世界と逆行する日本の農業・農政

会議でもっとも印象的だったのは、酪農や畜産をはじめとする日本の農業とは全く逆方向の米豪農業の展開だった。

オーストラリアの農業者は、ESG(環境・社会・企業統治)を盛んに話題にしている。気候変動への対応は会議のメインテーマである。

注目すべきはアメリカ農業の変貌である。かつて日本の農業関係者はアメリカ農業を貴重な土壌や水を収奪する非持続的な農業だと批判してきた。それがこの数年で180度と言っていいほど変化した。持続可能性(サステイナビリティ)は農業者共通のボキャブラリーとなっている。

アメリカ農業者は、気候変動に真剣かつ積極的に向き合うようになっている。農業は温暖化ガスの2~3割を排出すると同時に、気候変動の影響を最も受けるからだ。彼らは表土・水分の維持や炭素貯蔵に役立つ不耕起(土地を耕さない“no-till”)栽培などに自発的、積極的に取り組んでいる。

消費サイドでも、温暖化ガスのメタンを発生させる酪農・肉用牛生産への批判から、植物性食品(肉だけでなくチーズなども)や培養肉(肉だけでなくキャビアまでも)の開発・実用化が急速に進んでいる。数年までは価格・コストが高いということが問題視されたのに、今の課題は食味の向上だという。コストの問題は解決したようである。会議で「牛が生産するもの全て(牛乳も肉も)が持続的ではない」という発言があったのには驚いた。

また、オーストラリアの農業大臣は、「EUの農業担当大臣はアニマルウェルフェアのことばかり話をしていた」と語っていた。EUでは農業関係で気候変動と並んでアニマルウェルフェアが大きな関心事項なのだ。

今では、日本の農業や農政のほうが酪農・畜産を振興するなど環境や気候変動に悪影響を与えている。アニマルウェルフェアに対する関心も薄い。

7割以上の酪農家が全く牛を運動させていない

まず牛の飼育方法を説明したい。

これに、放牧と舎飼いがある。後者は、配合飼料を給与するため、牛を一定の場所に集めるものだが、牛を特定の場所に器具やロープなどで固定するつなぎ飼いとつながずに一定の場所で肥育するフリーストールやフリーバーンがある。数としてはつなぎ飼いが多い。

牛舎につながれた乳牛
写真=iStock.com/y-studio
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牛の飼育方法に関するアニマルウェルフェア上の問題について、酪農に従事した人の報告などを踏まえた私の指摘に対して、それぞれの経験や経営に即して実態に合わないなどの反論が行われた。

しかし、酪農経営には大きな幅がある。一部の酪農家によって牛が十分にパドックで運動させられているとしても、7割以上の酪農家が全く牛を運動させていないという気の毒な牛の実態を否定できないはずだ。

残念だが、揚げ足取り的な反論もあった。

例えば、酪農に従事した人の報告を受けて、10年生きた牛が、廃牛となる「最後のほうはずっと足を引きずり、一日二回の搾乳のための移動が辛そうでしたが、もう出荷することが決まっていたため、数か月治療はされませんでした」(「論座」2023年01月20日)と指摘したところ、そんなに生きている牛はいないとする反論があった。