輸入飼料の高騰による経営悪化で、酪農家の離農が増えている。日本の酪農はどうすれば維持できるのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「気候変動の影響で、飼料のトウモロコシ価格は今後ますます高騰する。このまま輸入飼料に依存した経営を続けていると、日本の酪農は大打撃を受ける。いまこそ放牧型酪農に転換すべきだ」という――。
乳牛たちのいる牛舎
写真=iStock.com/mcKensa
※写真はイメージです

既得権益を守ろうとする酪農界からの反発

前回、「牛乳は捨てるほど余っているのに、なぜ値上げなのか」という記事で酪農とその政策の問題点について書いた。これに対して、酪農家の人たちからいくつかの部分について反論がなされた。私の論考のせいで補助金を受けらないかもしれないと考えると、反論するのも理解できる。しかし、私の主張の本質的な部分についての反論はなかった。

酪農家だけではない。JA農協などの酪農団体、農業経済学者、農林水産省、農林族議員が懸命になって、既得権益を守ろうとしている。世界は温暖化ガスであるメタンや亜酸化窒素の発生源である酪農や畜産を縮小しようとしているのに、日本は畜産部を局に昇格させて振興しようとしている。これは、国民の納税者、消費者としての利益を大きく損なっている。

酪農界は、食料の供給に重要な役割を果たしていると主張するが、納税者の負担による多額の補助金を受けながら、供給責任を果たしてこなかった。その象徴的な例が2014年のバター不足である。また、国が酪農に助成してきた理由は、その効率化を図ることだった。国際競争力を向上させ関税削減などの国際交渉に対応できるようにするとともに、消費者に多額の税負担の見返りとして価格の引き下げを得させようとしたのだ。

それなのに、バターなど乳製品の関税は高く張り付いたままで、生乳の価格(乳価)や飲用牛乳の値段は逆に上がった。フランスのエシレバターを日本で買うと関税などでパリのスーパーの6倍の値段がする。財政負担によって国民に安くサービスを提供している医療行政と異なり、国民は納税者として負担しながら逆に消費者としても負担を高められることとなった。かつて酪農行政に関わった者として悲しい気持ちになる。