なぜ日本は世襲議員ばかりになったのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「小選挙区になってから現職優先の下で地盤、看板を引き継げる世襲議員以外の新人が党の公認を受けるのは困難になった。一度公認になると党内で政策論を戦わせる機会もなく、政治家の劣化を生んでいる。有権者は、いまこそ選挙制度改革について声を上げていくべきではないか」という――。
投票している人々の手元
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政治家が小粒になった

永田町では通常国会閉会後に岸田文雄総理が衆議院を解散するという臆測の下、各党で公認候補の調整が急ピッチで行われている。区割り変更で定員が5つ増えた東京では、公認候補選びで自民党と公明党が対立。24年間続いた連立政権がついに終わりを迎えるのではないかと報道をにぎわせているが、有権者不在の政党間の駆け引きに過ぎず、私は白けた思いで見つめている。

近年、国政選挙の投票率は右肩下がりだ。80年代には70%以上あった投票率が前回の衆議院選挙(2021年10月)では55.9%まで下がっている。これは有権者の政治への失望を表しているのではあるまいか。

【図表】衆議院議員総選挙における投票率の推移
衆議院議員総選挙における投票率の推移(グラフ=総務省HPより)

私は、「三角大福中」と呼ばれた派閥戦争が盛んな頃に学生時代を送り、その後農林水産省に30年ほど勤め、多くの政治家と付き合った。その頃と比べて今の政治家について総体としての印象を言うと、「小粒になったな」ということだ。

以前は迫力を感じる政治家が多かった。鹿児島県選出の衆議院議員、故山中貞則が通産大臣になったとき、ある通産官僚は「風圧を感じる」と言った。

自分たちが優秀だと思っている通産官僚が、政策論で気圧されたのだ。私も山中に言われて難しい仕事をこなした。有力な政治家だが総理になるという野心を持たない山中を私は「高士」だと思っていた。かれは後継を山中家から出さないと遺言し、身内からの議員世襲を当然としていた自民党鹿児島県連を混乱させた。

ひるがえって現在はどうだろう。

どこを見ても世襲議員だらけだ。しかも政治家としての能力が高いとは思えない。中には、就職活動は大変なので、手っ取り早く家業の政治家を継いだとしか思えない人もいる。ごく限られた人を除いて、私には、今の世襲議員が欧米の政治リーダーに伍してディベートする姿を想像できないのだ。