「塩は体に悪い」「減塩は体にいい」は大間違いである理由

日本人は塩を摂りすぎている。動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血など循環器系の病気を予防するには、塩分控えめを心がけなければならない――。そう思って、日々減塩に取り組んでいる人も多いでしょう。「塩は体に悪い」「減塩は体にいい」は、日本の健康常識になっています。

スーパーやコンビニに行けば、食品のパッケージに「無塩」「減塩」「塩分○%カット」の文字が並びます。厚生労働省も1日あたりの食塩摂取目標量を10.0g(2004年まで)から5年ごとに引き下げ、現在は男性7.5g、女性6.5g未満に設定しています。

こうした官民挙げての「1億総減塩志向」とも言える意識づけが成功し、日本人の塩分摂取量(1人1日あたり)は、1990年から2014年までの24年間で、12.5gから9.7gと約22%も減りました。

その結果、高血圧症患者数はどう変化したでしょうか。驚くべきことに、約610万人から約1011万人と、約66%も増えているのです。もちろん、高齢化などの要素も関係しているでしょうが、塩分摂取量と高血圧症に関係がないこと、少なくとも高血圧症の大きな要因ではないことを証明しています。皆さんにはまず「塩=悪」であるという間違った常識を、アップデートしていただきたいと思います。

減塩や無塩は健康を損なう可能性もある

そもそも「塩=悪」の図式は、どうして出来上がったのでしょう。日本においては1954年にアメリカの高血圧専門医ダール博士が行った疫学調査の影響が大きかったようです。

日本の東北地方に高血圧症患者が多いことに着目したダール博士がこの地域の人々の食生活を調べたところ、食塩摂取量が1日27〜28g(九州地方は14g)と突出して多く、高血圧症の発症率が40%(九州地方は20%)に上ることがわかったのです。

東北地方は寒いので室内外の温度差が大きく、出入りのたびに血管が収縮・拡張するので負担が大きくなるなどの要因もあるわけですが、このときの疫学調査ではそうした要因は調査対象にはなっていませんでした。

その後、別のアプローチからの科学的な研究も進んで、ナトリウム(Na)に血管を収縮させる働きがあることが証明されました。血管が収縮する(狭まる)と、中を通る血液の流れは抵抗が大きくなり、血圧が上がります。塩はナトリウムと塩素が結び付いた塩化ナトリウム(NaCl)で、塩を控えればナトリウムの摂取が抑えられ高血圧症が予防できる、という説が定着したのです。

しかし、最近では、減塩は必ずしも死亡率を下げるものではないという研究結果も出ています。例えば2014年に『The New England Journal ofMedicine』で発表された研究では、世界規模で塩分摂取量と心血管疾患や死亡率との関連を調査しています。そこでは1日の塩分摂取量が「非常に多い」「非常に少ない」場合にリスクが高まり、適度な塩分摂取量でリスクが低下することが指摘されています。

あるいは11年に『Journal of AmericanMedical Association』で発表された研究では、塩分摂取量が多いほうが、“常識”とは逆に死亡率が低かった事例も報告されています。

【図表】塩はなぜ健康に悪いと言われるのか