総裁再選―衆院解散というプランB

岸田文雄首相(自民党総裁)が、9月の自民党総裁選前の衆院解散・総選挙を見送る方針を固めた。派閥の政治資金規正法違反事件やその後の対応への逆風が強く、内閣支持率が低迷したままで、当初に描いていた、総裁選前に解散して衆院選で民意を得て、総裁選を無風に近い形で再選するというシナリオが崩れたためだ。

自民党役員会に臨む(左から)茂木敏充幹事長、岸田文雄首相、麻生太郎副総裁=2024年6月3日午後、国会内
写真=時事通信フォト
自民党役員会に臨む(左から)茂木敏充幹事長、岸田文雄首相、麻生太郎副総裁=2024年6月3日午後、国会内

岸田首相は、改正政治資金規正法の成立で政治不信の払拭を図り、経済の建て直しなどによって政権浮揚を図ったうえで、総裁再選を果たし、その勢いを駆って衆院を解散するというプランBを描く。

だが、規正法改正案をめぐって、首相が麻生太郎副総裁らの反対を押し切って公明党や日本維新の会と修正で合意するなど、統治機能不全は深刻で、今後、態勢を立て直したとしても、総裁再選に漕ぎつけられるかどうか、先行きは見通せない。

「先送りできない課題に専念している」

首相がいよいよ窮地に追い込まれてきた。朝日新聞が6月4日朝刊で「今国会の解散見送り」「支持率低迷で判断」「9月の再選戦略に影響」などと報道したことで、それが可視化されたと言える。総裁選前に衆院を解散する政治力がなければ、総裁再選どころか再選出馬も危うくなるとされるからだ。

岸田首相は4日朝、首相官邸で記者団に「今は政治改革をはじめ、先送りできない課題に専念している。それらで結果を出すこと以外のことは考えていない」と述べた。

読売新聞も5日朝刊で「解散、総裁選以降」「首相調整、信頼回復に注力」と報じた。政治資金規正法違反事件、それを受けた内閣支持率は5月の世論調査で26%と低迷し、4月の衆院3補選、5月の静岡知事選などの地方選で相次いで敗北したこと、連立を組む公明党が総裁選前の解散に否定的で、山口那津男代表が4日、首相官邸で記者団に「国民の政治不信はなお根強い」と語ったことなどが背景にある、と解説している。

早期解散見送りの理由は、自民、公明両党の議席大幅減が予想されるというだけではない。岸田首相と麻生氏や茂木敏充幹事長との間に、政治資金規正法改正の落としどころをめぐって改めて距離が生じ、政権運営に影響を及ぼす事態になっているからだ。

5月31日、岸田首相が唐突に動いた。公明党の山口代表、日本維新の会の馬場伸幸代表とそれぞれ会談し、両党の要求をほぼ「丸のみ」することで、政治資金規正法改正の自民党案を修正することで合意したのだ。

自民党から再提出された政治資金規正法改正案は、公明党の要求を取り入れ、政治資金パーティー券購入者の公開基準額(現行20万円超)を10万円超から5万円超に引き下げること、維新の会の要求を受け、政党が議員に支出する政策活動費の支出をチェックする第三者機関を設置し、10年後に領収書などを公開することなどを盛り込んでいる。