「将来に禍根を残す改革は避けるべきだ」

派閥の解散、政治倫理審査会出席に続く岸田首相の「独断専行」だが、今回はとりわけ麻生氏に不満が残った。これが首相の総裁再選・衆院解散戦略にも影を落としている。

麻生氏は、1月に岸田派を解散した際、首相に怒りをぶつけたが、3日後に会食に応じて矛を収め、首相のその後の仕事ぶりを見て総裁再選支持に回帰していた。今回は10年、20年先の自民党の将来がかかる事案にもかかわらず、世論に迎合し、自分の政権維持しか考えていない岸田首相に不信感すら覚えているのが実情だ。

麻生氏は6月8日、福岡市内で開かれた自民党福岡県連大会で講演し、政治資金規正法改正案に関連し、「政治活動の基盤を維持するために一定の政治資金が必要なのは言うまでもない」との立場から、「国会議員を目指す多くの若者が政治資金を確保できずに断念することは甚だ残念で、支援の道を閉ざすのはいかがなものか。政治資金の透明性の向上を図るのは当然だが、同時に将来に禍根を残すような改革は断固避けなければならない」と強調し、首相を公然と批判したのである。

森山氏が同じ8日、自民党鹿児島県連大会であいさつし、公明党の要求を受け入れたことについて、政治資金規正法違反事件に絡めて、「迷惑をかけたところが、迷惑を被ったところの言うことに謙虚に耳を傾けることは当然ではないか」と述べ、首相に理解を示したのとは、対照的だった。

「派閥解消や党内処分で自ら墓穴」

首相を取り巻く環境も変化している。岸田派内からも、首相のこれまでの対応を疑問視する声が上がる。平井卓也広報本部長(元デジタル相)は5月15日、自民党東京都連との政治刷新車座対話の後、岸田首相の責任について「組織というのは上が責任を取るべきだ、と皆さんおっしゃっていた。9月の総裁選で考慮されるべきことだ」と指摘し、「収支報告書の不記載の問題を派閥解消や党内処分でどんどん分かりづらくし、党が自ら墓穴を掘った」と記者団に語ったのだ。

平井氏に同調する声は党内に少なくない。政治資金収支報告書への「不記載」という形式犯に過ぎなかったのに、朝日新聞などが「裏金」と報道したのに煽られ、岸田首相が自ら派閥を解散し、安倍派などへの厳しい処分に踏み込んだことへの疑問があるからだ。

自民党として、まず政治にカネがかかること、政策活動費や文書交通費を受け取っても足りず、パーティー収入が必要なこと、違法な使い方をしていないことを個々の議員に説明させる。東京地検の捜査結果を受け、政治資金報告書の修正を経て、岸田首相がスピーディーに不記載の責任(処分)を負ったうえで、政治資金の透明化という再発防止策の検討に移行していれば、こんな大きな問題にならなかったのではないか、との思いが党内にくすぶっているのである。

「首相になってやりたい仕事はある」

党内には「ポスト岸田」への意欲を示す向きがぽつぽつと現れてきた。

まずは4月の補選の最中に幹事長辞任―総裁選出馬をにおわせ、その後、「辞めるなら、もっと別のタイミングで辞める」と嘯く茂木氏だ。5月19日のインターネット番組・ReHacQで「首相になってやりたい仕事はある。経済で言うと、生産性を上げて一人ひとりの所得を増やす。社会保障で言えば、人生100年時代に対応した制度に作り替える」などと抱負を語った。

石破茂元幹事長も準備を急ぐ。今年2月に政策勉強会を8カ月ぶりに再開したが、5月16日には自身の人となりを題材に勉強会(17人出席)を国会内で開いた。翌17日には都内で講演し、総裁選を念頭に「当選期数が長く、いろんな仕事を歴任してきた者は、皆考えねばならないのではないか。一切考えないことは自己否定になる」と述べ、5度目の出馬に意欲を示している。