首相と麻生、茂木両氏に改めて距離
首相は5月31日夜、記者団に「法改正を今国会で確実に実現する、とした国民との約束を果たさなければ、政治への信頼回復ができないという強い思いから、思い切った、踏み込んだ案を提示する決断をした」と説明した。
自民党内には、パーティー券購入者の公開基準額を当初案の10万円超に留め置くべきだとの声が少なくない。中堅・若手は事務所の維持や私設秘書の雇用などにパーティー収入による政治資金が必要だ。自公の実務者協議を担う鈴木馨祐政調副会長(麻生派)が5月12日のNHK番組で「自民党の力を殺ぎたいという政局的な話と再発防止がごっちゃになっている」と発言したのもこのためだ。
公明党との連立離脱か、自民党の改正案に賛成かをめぐるギリギリの折衝もなかった。政権中枢にパイプがある公明党の高木陽介政調会長が入院していたことも痛手だった。
これに先立つ5月29日夜、麻生氏は、首相とパレスホテル東京の日本料理店で会食し、「譲歩しようと思わないこと。中長期的に党の将来を考えたら、若手が安定的に収入を確保できるようにすべきではないか」と問い掛け、茂木氏とともに5万円超への引き下げに難色を示した。首相は「今国会成立」が政権の生命線だとの思いを繰り返し語ったという。
森山裕総務会長は29日に首相と首相官邸で昼食をともにし、「自公連立維持」を優先するよう主張する。菅義偉前首相も30日午前、衆院議員会館を訪ねてきた首相に「連立を組んでいる以上、公明党に合わせるしかない」と進言したという。
党執行部の考えが二分される中、岸田首相は30日夕、国会対策の責任者の茂木氏ではなく、森山氏や渡海紀三朗政調会長の意向を取り入れ、公明党への譲歩を選択した。麻生氏はこれを聞き、首相に電話し、「現場の実務者は公明党と合意しているんですよ。それを上から変えるのはおかしい」と抗議したが、首相は「法案を通さないと党が終わる」と切り返した、と読売新聞に報じられている。
麻生氏は「党内は皆、怒っている。一番まともだと思っていた岸田が一番エキセントリックだった」と周辺に不快感を露わにした。
次期衆院選後の自公維連立への思惑か
岸田首相は、公明党との折衝と並行し、維新の会にも側近の木原誠二幹事長代理を通じて接触を図った。木原氏は29日夜、維新の遠藤敬国会対策委員長に電話で政策活動費の改革に関する再協議を申し入れ、翌30日には維新の要求をほぼ受け入れると伝えている。
首相としては、維新を取り込むことで、7月の東京都知事選への対応、国会終盤での憲法改正論議進展に向けての共闘を見据えるほか、次期衆院選で大幅に議席を減らした場合に連立協議に誘導する思惑があるのではないか、と取りざたされている。
維新には不満も残る。企業・団体献金の禁止が法案に盛り込まれなかったからだ。
自民党は5月31日の衆院政治改革特別委員会の理事懇談会で、新たな修正案を提示する。大野敬太郎与党筆頭理事は、自民党執行部の指示で10万円超と主張してきたこととの整合性を記者団に問われ、困惑気味に「総理の決断だ」と答えるしかなかった。
修正案はその後、維新との詰めが甘く、採決の延期を余儀なくされる。立憲民主党の安住淳国会対策委員長から「自民党は民主党政権をぼろくそに言うが、ここまでやったことはない。ひどい迷走だ」と揶揄する場面もあったが、6月7日に自公維の枠組みで衆院を通過し、今国会で成立する見通しだ。