老後の介護生活における格差が深刻化している。淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは「介護生活を送る高齢者のなかで、もっとも貧困を実感するのが国民年金のみで生活するケースだ。まとまった貯金がある場合は生活保護を受給することができないため、生活保護以下の水準で暮らしている高齢者も少なくない。金銭的に余裕があり民間保険にも頼れる層と、社会保険しか利用できない層との“介護格差”は今後さらに深刻化していくだろう」という――。(第1回)
※本稿は、結城康博『介護格差』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
食費が足りず、福祉団体の支援を受ける
筆者は、貧困要介護者の生活実態を把握するため某「地域包括支援センター」を訪ね社会福祉士に話を聞いた(2022年8月25日)。「地域包括支援センター」とは市町村が設置主体となっている機関で、おおよそ中学校区に1カ所設けられている「高齢者支援・相談センター」である。
ここには高齢者及び家族、ケースによっては介護専門職自らが相談に訪れる。そして、日々、相談を受けている専門職の1人が社会福祉士だ。多くの相談・支援ケースに対応しているが、まさに「介護格差」を実感しているということであった。
この地域は都市部駅近に位置することから超高級マンションが建ち並ぶ反面、未だ昭和をほうふつとさせる木造2階建てアパート6畳1間(風呂なし・トイレ付き)、家賃は1カ月約2万8000円といった物件もあるとのことだった。このようなアパートに独りで暮らす高齢者は生活保護受給者が多いのだが、最も「貧困」を実感するのが国民年金のみで暮らすケースだという。
中田トシエさん(88歳、仮名)は、要介護1で毎月6万円の年金受給額で暮らす。そこから家賃約3万円及び光熱費、社会保険料、医療や介護の自己負担分などを差し引くと手許に残るのが5000~8000円弱でほぼ食費となる。当然、これだけで充分な食生活を送ることはできないこともある。
そのため、定期的に福祉団体などが慈善事業の一環として行っている「食料支援」サービスを活用しているそうだ。特に、コロナ禍では企業や慈善事業による食料支援の回数が多かったため、要介護者といえども杖歩行で行列にならび食料を得ていたという。