政府は「資産運用立国」を掲げ、新NISAを推進している。これに乗るべきなのか。国際ジャーナリストの堤未果氏は「日本が資産投資・運用に乗り出すなか、米国の『投資の神々』は株を大量に手放していた。いま新NISAに飛びつくのは危うい」という――。

※本稿は、堤未果『国民の違和感は9割正しい』(PHP研究所)から一部を再編集したものです。

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わざわざ外資を儲けさせる新NISAは誰のものか

日・ウクライナ経済復興推進会議で〈金融力〉という言葉を使った岸田総理は、2023年4月の経済財政諮問会議で、こんな発言をしていました。

〈家計金融資産2100兆円を解放し、成長し続ける「資産運用立国」を実現します〉

2100兆円のうち約半分の1100兆円は、私たち国民の預貯金です。

この話をした時、前述したロンドンの金融アナリストが、ヒューッと口笛を吹いたことが忘れられません。

「ゆうちょ、年金ときて、次は1100兆円という巨大な預貯金が市場に流れてくるわけか。1%でも11兆円、外国人投資家連中は、聞いただけで目がギラギラ輝くな」

2024年1月。日本政府や年金機構に投資の助言をしている米投資銀行ゴールドマン・サックスが主催したアジア最大の金融イベント「グローバル・マクロ・カンファレンス」で、岸田総理が投資家向けに出したメッセージにも、大きな期待が寄せられていました。

日本を〈資産運用立国〉にするために、家計金融資産の運用業と、アセットマネージャー(本人の代わりに資産運用をする人)の規制改革を進めるというのです。

政府はそのために、国民が預貯金で資産運用しやすくなるよう、新NISA制度を、2024年1月から開始しました。株で得た利益にかかる約2割の税金を一定範囲で非課税にするNISA制度をさらに優遇し、大々的キャンペーンを展開し始めたのです。

その一方で、東京、大阪、福岡、札幌の4都市を「金融・資産運用特区」にし、海外からアセットマネージャーや金融のプロをどんどん呼び込み、彼らの家族の住居や子供の学校を準備し、短期滞在ですぐ永住権が取れるよう、法律をゆるめるというおもてなしぶりでした。

経済アナリスト故山崎元氏は、岸田総理が2023年9月に米国で、投資家達にこの特区構想をアピールした時点で抱いた違和感を、自身のコラムでこう指摘していました。

〈なぜ海外の運用会社を、優遇措置を与えてまで誘致したいのかだ。日本株に対する運用ビジネスの動きを活発化させたいなら、まず日本の運用会社がビジネスをしやすい環境をつくることが先決ではないか〉(2023年9月27日『週刊ダイヤモンド』)

わざわざ外資を儲けさせる環境を作り、国民の預貯金を投資させるのは誰のためでしょう?