厳格な解雇規制は労働市場の流動性を下げ、格差も縮まらない
世界的に金銭解雇のルール化が主流になりつつあるのにはさまざまな理由がありますが、もっとも大きいのは(スペインのように)解雇規制の緩和で企業の雇用意欲を刺激し、失業率を低下させようとすることでしょう。
しかし経済学者のあいだでは、解雇規制緩和による雇用促進効果には異論もあります。企業は「雇用の安定」を名目に労働者に低賃金を受け入れさせることで解雇規制のコストを吸収できるからで、賃金が上がらず失業率が低い日本はその典型です。
しかしそれでも、厳格な解雇規制が採用・解雇をともに減らすことには経済学者のあいだでコンセンサスができています。日本の労働法制では社員を容易に解雇できない縛りがあるため労働市場の流動性が下がり、正社員は会社というタコツボに押し込められると同時に、非正規から正社員への道が閉ざされ「現代の身分制」が形成されました。
解雇規制が緩和されれば、生産性の低い正社員を一定の補償金を払って解雇し、空いたポストを、能力はあるがこれまでチャンスがなかった非正規に与えることも可能になるでしょう。解雇ルールの透明性が高まることによって正社員の固定費用が減少し、成長産業を中心に、不確実性がある状態でも正社員の新規ポストが拡大するかもしれません。このように考えれば、解雇の合法化は格差問題の解決につながります。
解雇規制を緩和して、生産性の低い産業から生産性の高い産業への労働移動を促進し、世界的にも低い日本の労働生産性を高める効果も期待されています。アメリカの州ごとに異なる解雇規制を用いた実証分析では、解雇規制がきびしくなると企業の参入・退出が抑制され、生産性の指標として用いられる全要素生産性(TFP)の伸びが抑制されるとの結果がでています。