グローバル化する労働市場で定年制の維持には限界がある
とはいえ、労働者が生産性の高い業種に移動することが常に好ましいわけではありません。日本の場合、製造業の生産性は高くサービス業の生産性は低いのですが、効率化の進む製造業より介護などのサービス業への労働需要が大きく伸びています。
こうしたケースでは、生産性が高い業種(製造業)から低い業種(サービス業)への労働移動が起こり、かえって生産性を下げるかもしれませんが、これによって介護職の劣悪な待遇が改善され、「介護難民」がすこしでも減るのなら社会全体の効用は大きく上がるでしょう。解雇規制緩和の目的は労働生産性を高めることよりも、労働需要が減退している産業から増加している産業に労働移動を起こすことなのです。
労働市場がグローバル化するなかで、世界の主流(グローバルスタンダード)と異なる雇用制度を維持することは困難になってきています。
中国に進出した日本企業は、「中国経済の減速」を理由に大規模な整理解雇や工場の閉鎖を進めており、これに労働者が抗議することを「中国リスク」といっています。ところがいまでは、中国企業が日本企業を買収したり、日本国内で事業を行なうこともふつうになりました。こうした中国企業が日本で整理解雇を実施したときに、解雇権濫用法理で違法にすれば、日本企業が中国で行なっていることとの整合性が問われることになります。「国籍差別」の批判を免れようとすれば、世界標準の解雇法制を整備する以外にないのです。
現状では、会社も労働者も、明確なルールがないまま解雇をめぐる紛争に対処しなくてはなりません。それでも大企業の労働者(正社員)は組合に守られていますが、中小企業では実質的に「解雇自由」になっており、なんの補償もないまま職を失う者が多いことは広く知られています。
非正規はさらに劣悪で、一片の通知で雇い止めにされ寮からも追い出されてしまいます。そんな弱い立場の労働者にとっては、金銭解雇のルールが法律に明記されることは大きな利益になるでしょう。