数十万円の運用に悩むのはバカげている

書店に行けば、表紙に「儲かる」「億万長者になれる」と書かれたマネー本が溢れています。でも本を読んだくらいで本当に儲かるなら、世の中は億万長者で溢れているはずですよね。

どれほど賢い人でも、私たちはみな、「自分が世界の中心だ」と無意識に思っています。脳の仕組みとして、自分を中心に置かなければ世界を理解できないので、やむを得ないのですが、「特別な自分には、特別なことが起きて当たり前だ」という認知の歪みが、詐欺に引っかかる原因です。

「儲かる」という話はいっさい信じないというのが、金融リテラシーの第一歩です。100万円の資金を10%で運用して、10万円の利益を上げられる人は多くありません。でも、詐欺師に騙されて100万円を失うのは一瞬です。

だったら、どうすればお金持ちになれるのか。「一生懸命働いて、節約する」と書いてある本は信用できます。金融資本を金融市場に投資して運用するためには、そもそも運用するだけの資産がなければなりません。そのためには、人的資本を労働市場に投資して得た収入と、生活費などの支出の差額である純利益を増やすしかありません。

超円安によって日本はどんどん貧乏になっていると言われますが、それでもGDPは世界第4位で、大卒正社員が定年まで働いて得る生涯収入は3億〜4億円です。この将来価値は、会社がつぶれたり、病気で働けなくなるリスクを割り引かなければなりませんが、それでも22歳で大学を卒業したばかりの若者が、潜在的には1億円以上の人的資本を持っていることは間違いありません。

このとき、手元にある10万円や20万円の貯金をどうやって運用するのかに頭を悩ませるのは、バカげています。真剣に考えるべきは、1億円の人的資本をどうやって運用し、さらに増やしていくのかのはずです。

学生時代から毎月1万円を積み立て投資するのは立派なことでしょう。でも、こういう言い方をすると顰蹙を買うかもしれませんが、40歳から毎月10万円の積み立て投資を始めた、大きな人的資本を持つ人に、たちまち追い越されてしまいます。

人生100年時代になって、60歳で仕事を辞めると、100歳までに40年もあります。そう考えれば、これからは70代まで好きな仕事を続け、80歳まで資産を運用するのが常識になっていくでしょう。40歳から投資を始めても、80歳まで40年ありますから、投資期間としては十分です。であれば、40歳までに「稼げる自分」になり、生涯現役で(できれば生涯共働きで)働くのが、もっとも経済合理的な人生設計になります。なによりも、投資は損をするリスクがありますが、働けば確実に利益を得られるのですから。

ソファーで本を読んでいる人
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです

トマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコの『となりの億万長者』(早川書房)は、富裕層研究の第一人者がアメリカのお金持ちを徹底的に取材し、富を築いた秘密を明らかにしたロングセラーです。2人が発見したのは、お金持ちは六本木ヒルズのような億ションではなく、庶民的な町で質素に暮らしていることでした。なぜなら、お金を使うと、お金は減ってしまうから。時代が変わっても、これが「お金持ちになる」ための永遠の真理です。