本物の深い知識、理念あってこそのフレーム理論
ここで、私の実際の経験を例に挙げてお話ししましょう。私の「パフォーマンス学」(パフォーマンス心理学)は、1979年までは日本には影も形もなかった学問です。80年にニューヨーク大学大学院のパフォーマンス研究科で修士号を取って帰国した私が、日本で初めて開始したものです。当然ですが、当初はまったく周囲からの信用を得られませんでした。
私はパフォーマンス学の話をする相手に、大概2回勝負を挑みます。
第1段階は、初対面の1秒から2秒。私がフレームに入れた「日本人のためにパフォーマンス学を広めている熱心で誠実な創始者」というイメージを、まず彼らは見ることになります。
そのうえで、私から「共にこの研究をしましょう」だとか、「パフォーマンス教育のための学会を創設するので、寄付をお願いします」という第2段階の話に入ります。そこで大金あるいは人手を出すか否かを決定するために、彼らは私のフレームの“奥”を見ようとします。
これは当然の欲求です。
心理学で言えば、まず相手が何者かを知りたいと思う、「不確実性解消の欲求」が働くのです。次に「この相手と組んで大丈夫か?」「この相手と共に快適にうまくやれるか?」「この相手を好きか嫌いか?」という「不安解消の欲求」が働きます。いろいろな質問やその後もさまざまなやり取りが展開していきます。この時間は、相手の多忙さにもよりますが、1時間以上が一般的です。
彼らは私のフレームの深さをはかろうとする、ここが一番の問題なのです。私という人間に、どのくらいの専門知識や社会的情報、思想や理念、志、経済や社会に関する認識があるか。これらに次々と応えていくことで、相手がこちらのフレームを「本物だ」と認識してくれるわけです。
私にとって92年に「国際パフォーマンス学会」を立ち上げたときが、まさにその正念場でした。結果、60名ほどのトップ経営者に、私のフレームを信用していただいて、当時の金額で2億円近くを出資していただくことができました。
現在もさまざまな組織にパフォーマンス学を新たに導入し続けていますが、やはり初対面で必要なのは、こちらが自分のアイデンティティーをはっきり持っていること。それを相手に合わせてフレームに入れること。そして、その場の自分の「顔」、すなわち、強調して見せる部分と関連する多くの情報を仕入れ、猛烈に話せるくらい事前に勉強し、自分の引き出しをできる限りたくさんつくることです。
こうした「自分の見せかた」の基本を覚えておけば、仕事の実力をつけていくと同時にどんな仕事も必ず取ることができる、ということを、私はパフォーマンス心理学のデータと実体験に基づいて、確信をもって読者の皆様にお伝えします。