川淵三郎さんはJリーグを創設する前の30年間、古河電気工業で営業に明け暮れた。サラリーマン生活で培ったゴルフマナーは88歳の今でも役立っているという。ノンフィクション作家・野地秩嘉さんの連載「一流の接待」。第5回は「接待ゴルフで絶対にやってはいけないこと」――。
Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さん
撮影=西田香織
Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さん。古河電気工業の営業時代は、ゴルフ接待に明け暮れた

「教え魔おじさん」は最悪である

ゴルフの練習場へ行ったことのある人は経験があるかもしれないが、「人に教えるのが好きなおじさん」という存在がいる。

「アドレスだけれど、もう少し右肩を下げたほうがいい」

こんな話をしているからレッスンプロかと思ったら、単なる「人に教えるのが好きなおじさん」だった。

人に教えるのが好きなおじさんはゴルフ場にもいる。同伴者になったら、教わることになってしまう。接待ゴルフでは絶対にやってはいけない行為だ。

川淵三郎さんは上手だから人にアドバイスをすることがある。ただ、それには原則があるのだという。

「ゴルフの技術は人に教えてもなかなかうまくはならないものです。人は尊敬している人の言うことしか聞かないんです。人に教えるにはまず、人から尊敬される人にならなくてはいけない」

バンカーでは「肩の高さ」までクラブを上げる

「僕は教えてください、アドバイスをくださいと言われても、前半は絶対言わない。前半は見ているだけです。後半になって、気になる点があればせいぜいひとつかふたつです。最初から人に教えるのはエチケットに反するし、本当にその人の弱点なのかどうかわからないからです。僕が見ていて、この人はここが苦手だなと感じたらワンポイントで伝えることにしている。それも、人が混乱するようなアドバイスはしない。肩が回ってないとか、グリップが悪いと言われても、人は混乱するよ。

それよりも、バンカーに入った時はクラブを腰の高さではなく、肩の高さまで上げて、そのままゆっくりおろしてくださいと言うことにしています。そうすればだいたい、バンカーからボールは出ます。バンカーから出せない人って、ホームランするのが怖くてスイングが小さくなっている。肩の高さまで上げてそのまま下ろしたら、たいていの人は出ます。誰がやってもできるアドバイスをすることです。

他には、そう、接待ゴルフでホスト役の人はルールとエチケットを知っておくことでしょう。たとえば、ティーグラウンドに上がってボールを打とうとしている時、そばにいる人は絶対にしゃべってはいけない。接待ゴルフだとつい声をかけたくなったりするけれど、それはいけない。セカンドショットの時でも同じです。また、バンカーでは高いところから入ってはいけないとか、パットする人の正面に立ってはいけないとか、そういうエチケットを知らない人、多いんです。接待ゴルフではちゃんとわかっていてエチケットを守らないといけない」

ゴルフの達人としてアドバイスを乞われることが多い川淵さん
撮影=西田香織
ゴルフの達人としてアドバイスを乞われることが多い川淵さん。教える行為にもエチケットがあるという