ひざの痛みの原因はどこにあるのか。代表的な4つの症状を、専門医が解説する──。

歩くだけでも体重の3倍の負荷がかかる

私たちのひざは、日常生活の中で想像以上の負荷にさらされています。立つ、歩く、座る、階段を上り下りする――こうした何気ない動作を支えているのがひざ関節です。

内尾祐司
内尾祐司(うちお・ゆうじ)
島根大学医学部整形外科学講座教授。整形外科専門医。専門は膝関節外科、手外科、スポーツ障害。膝関節に関して2000例以上を自ら執刀。『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』策定委員会では、委員長を務めた。

ひざ関節は、太ももの骨「大腿骨」、すねの骨「脛骨」、ひざの前面に位置する「膝蓋骨(ひざのお皿)」の3つの骨から構成されています。この3つが組み合わさることで、スムーズに足を動かせるようになっています。大腿骨と脛骨の末端には約3ミリの関節軟骨があり、合わせて約6ミリの軟骨が弾力性のあるクッションのような役割を果たし、衝撃を吸収して関節を守っています。さらに、ひざ関節の内部には「半月板」と呼ばれる軟骨も左右に一つずつ存在します。半月板もまた、衝撃を吸収し、関節にかかる負担を和らげる重要な役割を担っています。

レントゲン写真に写るのは、基本的に骨だけ。関節軟骨や半月板といった組織は写らないため、健康なひざのレントゲン写真を見ると、骨と骨の間に空間があり、まるで骨が宙に浮いているように見えます。実はこの「隙間」こそが、軟骨が存在している証し。厚みのある軟骨が、関節の動きをなめらかに保ち、骨同士が直接ぶつかるのを防いでくれているのです。

この軟骨には血管も神経も通っていません。そのため、軽度な損傷では痛みを感じにくく、たとえ損傷しても皮膚のように自然治癒することがないのが厄介なところです。一度欠けた軟骨や半月板は、基本的に再生することはありません。加齢とともに少しずつ削られていきます。

そもそも「軟骨」という組織の起源は、地球に生命が誕生した古代の海までさかのぼります。水中で活動することを前提に進化をしていくなかで、私たち人間の祖先は陸に上がり、やがて二足歩行を始め、すべての体重がひざにかかるようになりました。歩行時には体重の2〜3倍、走行時には4倍、さらにスピードが加わると最大で16倍もの負荷がひざにかかります。仮に体重60キログラムの人が走れば、一時的に1トン近い負荷がひざにかかることもあるのです。

そして、「人生100年時代」や「生涯現役」といった言葉が飛び交う現代では、平均寿命が延びたことで、ひざにかかる負担も長期にわたるようになりました。加齢だけでなく、体重の増加もまた、軟骨の摩耗を加速させる要因の一つです。体重が1キログラム増えると、歩行時には3キログラム、階段の上り下りでは7キログラム、前かがみや重い荷物を持つ動作では約10キログラムもの負荷がかかります。これが日々の生活の中で積み重なっていくのです。

こうした負担の蓄積によって現れるのが、「スターティングペイン」と呼ばれる初期症状です。立ち上がるとき、起き上がるとき、歩き始めるときなど、「動き出し」のタイミングでひざに痛みが走ることがあります。初期の段階では我慢できる程度の痛みでも、そのまま放置していると、やがて長距離歩行や階段の昇降で強い痛みを感じるようになり、最終的にはひざが腫れてくるケースもあります。

ひざの痛みの原因は様々です。ご自身の努力で痛みを和らげることができる症状もあれば、専門医の治療が必要な症状もあります。今回は、ひざの痛みを引き起こす4つの症状について、痛みのメカニズムと必要な対処法を紹介します。

【図表】あなたはどのタイプに当てはまる? 簡単ひざ痛診断