つらい「肩こり」はなぜ発生するのか。原因と対策を専門医が解説する――。

ヒトの肩が発達した代償が「肩こり」

野球のピッチャーのように、上から肩をグルッと回して正確に遠くへボールを投げる――。この投擲とうてき能力は、ヒトが狩猟をするうえで重要な役割を担っていた可能性があります。また狩猟自体が、ヒトの進化にとって決定的な役割を果たした可能性があるとも報告されています。遺伝子的にヒトと近い存在であるチンパンジーですら、成長した雄でも12歳のヒトの3分の1くらいの能力しかありません。

ヒトがモノをより遠くに正確に投げることができるのは、肩関節の可動域がとても大きく、肩甲帯周囲の筋肉が発達しているからです。一方で、肩関節は他の関節に比べて自由な動作ができるからこそ、使いすぎて疲労が溜まったり、炎症を起こしたりすることがあります。肩に痛みを感じる原因の一つは肩の筋肉の炎症や張りです。とくに首の後ろから肩、背中にかけて広がっている僧帽筋を中心に張りを感じる症状は「肩こり」と呼ばれます。

肩こりには、姿勢などが原因で生じるもの、五十肩や腱板断裂など肩の病気に起因するもの、頚椎や眼精疲労、クモ膜下出血などが原因になっているものなどいろいろあります。いずれにしても、肩こりはヒトの肩が特別に発達してきた代償といってもよいでしょう。

厚生労働省が実施している国民生活基礎調査(2022年)によると、肩こりの有訴者率は人口1000人当たり男性53.3人、女性105.4人。この有訴者率は、腰痛に次いで高い数字です。今回の調査で女性の有訴者率も腰痛がトップになったものの、それまで約20年間は肩こりが首位でした。

肩痛の悩みは深刻です。名古屋大学整形外科の今釜史郎教授が行った疫学調査で、肩痛、膝痛、腰痛、坐骨神経痛を比較した研究があります。それによると、精神的にも肉体的にもQOL(Quality of Life)をもっとも低下させるものは肩痛でした。

実際に患者さんと接していても、肩痛が生活の質を下げていることはよくあります。腕を動かすと肩に痛みを感じる人でも、立ったり座ったりしているときにじっとしていれば、腕が重力で下がるために痛みをあまり感じません。一方で、寝るために横になると腕が重力で下方には行かないため、肩甲骨とぶつかり、痛みを感じやすくなります。寝返りを打って痛いほうの肩に体重がかかり、痛みで目が覚めてしまったという悩みもよく聞きます。快眠できなければQOLが低下して、だんだんと鬱っぽくなってきます。

睡眠時に痛みを感じる場合は、肩甲骨の下に枕を置くことがおすすめです。肩甲骨は体幹に対して水平ではなく、約30度前方の角度です。そのため、ベッドと肩甲骨の隙間を埋めるように枕を置けば、自然な体勢で眠れます。一方、横を向いて寝る傾向がある人は、逆に肩が前に倒れすぎるため、抱き枕を抱えて寝るとよいことが多いです。

服の着脱にもコツがあります。ジャケットを着る際に、袖に腕を通すために後方に脇を開けて腕を回すと痛みを感じる。その場合には、まず痛みがある側の腕を前方から袖に通してください。脇を締めたまま着られるので痛みを感じずに済むでしょう。

肩痛や肩こりは身近な病気・症状ですが、軽視してはいけません。しっかり予防・治療をして快適な暮らしを実現したいものです。次ページからは症状別の対処法を見ていきましょう。

症状でわかる肩の痛みフローチャート