外国目線の日本論は、イザヤ・ベンダサンの頃から絶え間ない。ほとんどは変な懐古趣味ジャパネスクや、外圧頼みの下心に、出羽守でわのかみのマウント狙い、現在の日本はダメと言いつのるばかりで、大きなお世話か私怨か、単なる誤解の妄言ばかりなのはご存じの通り。

だが本書はそうした外国人の日本論の定石を裏切ってくれる。十分な日本理解と、意外な視点も交えつつ、いまの日本を基本的には高く深く評価し、未来の可能性を指摘する、元気の出る外圧本だ。

『ウィーブが日本を救う 日本大好きエコノミストの経済論』●ノア・スミス 著 片岡宏仁+経済学101 訳●日経BP● 本体価格2,600円+税
『ウィーブが日本を救う 日本大好きエコノミストの経済論』●ノア・スミス 著 片岡宏仁+経済学101 訳●日経BP● 本体価格2,600円+税

冒頭の部分にくる、本書の大きな主張は、もっと日本に直接投資を、というもの。金融財政の出動はそろそろ限界なので、開発経済学的なアプローチをしよう。スタートアップ支援をがんばり、AI普及と半導体を機に新興企業を活躍させ、外国からの投資を呼び込み、新規手法も採り入れよう。そして人口減でジリ貧の国内市場よりも輸出にもっと力を入れよう!

この部分はかなりの経済理論的な裏付けと統計的な証拠をもとに示されているが、それだけだと、ありがちな単なるスタートアップ待望論と大差ない。我々にとっておもしろいのは、なぜ著者が、特に日本でそれが有望と考えるかという点だ。それが本書の題名にもあるウィーブ、日本語では「日本おたくの外国人」とでも訳そうか。いまや日本はアニメでもゲームでも音楽でも世界を席巻している。食べ物も小説も、日本の存在感は比類がない。それを足がかりに、日本はさらなる直接投資を呼べるのではという。

著者ノア・スミスは人気の経済系ブロガーというのが最も適切だろう。彼のブログは経済学的にも高い水準を持ち、本書の相当部分はその翻訳だが、日本を核にまとめることで、おもしろい流れができている。本書最後の部分はノーベル賞を含む最先端経済学の解説や批判、および一流研究者へのインタビューだが、理論解説としても充実しているし、著者の面目躍如。そしてそれが、日本の抱える課題についても示唆を与えてくれる。

むろん日本人として文句を言いたい部分はある。異人さんたちは日本の青春恋愛マンガを見て、日本に行けばリア充青春をやりなおせると思って憧れるのだ、という話は頭痛もの。あのね、日本人だってそんな充実した青春なんか送ってないよ。だからこそそれを夢見るアニメが人気なの! そんな妄想で来られると迷惑なので、アニメとAVで解消しといてくれよな。そういえば日本の誇るAVが一切登場しないのは、嗜好のせいかカマトトか。また日本で金融財政政策はオワコンというのは拙速に思える。

だがそうした点を含め、当の日本人に意外な視点を与えてくれる本書は楽しくも参考になる。読めば日本の経済、文化、都市を見る皆さんの目も変わる、かもしれない。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年7月4日号)の一部を再編集したものです。

山形 浩生(やまがた・ひろお)評論家、翻訳家●1964年、東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学科修士課程およびマサチューセッツ工科大学(MIT)大学院修士課程修了。著書に『 翻訳者の全技術』(星海社新書)、訳書にピケティ『21世紀の資本』(みすず書房)、オーウェル『一九八四』(講談社)など多数。

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