世界に広がる不安と謎の根本原因をこれ以上ない納得感で解説

1月にフジテレビが行った10時間超の会見で「あの場の空気を変える、冷静で的確な質問をした金髪の若い記者は誰だ?」とSNSが騒ぎ、複数の関連ウェブ記事まで出る事態を引き起こした人物がいた。それがこの本の著者、ニュース解説メディア「The HEADLINE」編集長で、テレビコメンテーターとしても活躍する石田健。いま注目を一身に浴びる論客の、意外にも初の著書だ。いかにも新時代のニューメディア人らしく金髪で、テレビやSNSの人気者で、政治の話で、しかもタイトルが『カウンターエリート』という耳慣れないカタカナ言葉……と、本誌の読者諸兄姉の琴線に触れにくいかもしれない。

なのでなおさら力を入れてご紹介する。今年上半期に読まなければ大損の、いま世界に広がる最大の不安と謎の根本原因をこれ以上ない納得感で解説する一冊である。

2度目のトランプ政権において、トランプと副大統領のJ・D・ヴァンスはなぜ世界秩序をひっくり返すような破廉恥な発言をし、愚行としか思えぬ意思決定を下すのか。

伝説的起業家のピーター・ティールは、移民出身であり性的少数者でもありながら、なぜトランプを熱心に支持するのか。何かと物議を醸すイーロン・マスクはなぜトランプの懐へ入ったのか。そして「リベラル」だったはずのシリコンバレーの起業家たちは、なぜ続々と「転向」したのか。

『カウンターエリート』石田 健 著●文春新書●本体価格1,080円+税
『カウンターエリート』石田 健 著●文春新書●本体価格1,080円+税

そしてこの一見「危険な右傾化」の病が、どのように日本を含む世界へと同時感染していったのか。

石田(と事実上の共同執筆者である金子侑輝)は、アメリカを震源地として生まれた現代の反動的政治潮流を、「カウンターエリートによる既存権力の否定と破壊」と位置づける。カウンターエリートとは、官僚やマスコミなどこれまでのオールドエリートへの対抗勢力のことであり、実際のところ自分たちもエリート的な出自であることも少なくはない。アメリカでその旗印となったのはシリコンバレーの英雄起業家たちだ。彼らは当初、自分たちのアイデアとイノベーションによって社会変革の夢を描いていた。だが、多様すぎる価値観と複雑な制度による混沌で身動きが取れなくなったアメリカが、漸進どころか退行する様に失望し、「何かがおかしい」と現状の破壊を企図し実行し始めたのだ、という。

広範な英語文献に支えられたストイックな論理展開、そしてクリアな語彙を駆使したクリスプな(※編集部注 クリスプな:歯切れのよい、シャキシャキした)分析。1作目にして「これまでの学術研究と起業経験を投入した“総決算”のようになっている」と、自身のYouTube番組で石田は仲間たちと苦笑する。いま最も周囲を圧倒する視座の高さと説得力を持つこの30代論客は、世界をどう読んでいるのか。その手の内を、この新書一冊で見せてくれる。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)の一部を再編集したものです。

河崎 環(かわさき・たまき)コラムニスト●1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。立教大学社会学部兼任講師。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』(ともに小社刊)ほか。
(イラストレーション=保光敏将)

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