最近、地震をはじめとして自然災害が頻発しており、事業継続計画(BCP)の策定が企業や官庁では重要な課題となっている。本書は地震・津波や気象災害などに対する危機管理の方法について、一般市民の目線でわかりやすく説いた啓発書である。
著者は防災士の資格を持つ弁護士で、2011年の東日本大震災以後、被災地に出向いて住民の生活再建を支援し防災教育に積極的に取り組んできた。昨年1月の能登半島地震後に現地入りして得た経験から、本書タイトルの「避災」と「共災」という概念を提案する。すなわち、事前の準備で災害を最小限にする避災と、災害後に協力して受け入れる共災というキーワードである。
本書は前半で避災の基本をわかりやすく説明した後、後半では共災について住宅の被害調査と罹災証明(第五章)、生活再建のための各種支援(第六章)、生活再建のシミュレーション(第七章)を具体的に解説する。自然災害から命を守るには、発災前の減災と発災後の復興生活再建が連続していなければならないからだ。
日本列島には約2000本の活断層があり、直下型地震が起きない場所はどこにもない。よって住民が前もって避災と共災に関する知識を共有することで、地域は初めて活性化できる。私も講演会を行う際、講演の企画者と聴衆が力を合わせて合理的に対処できることを目標にしている。
「知識は力なり」とは17世紀英国の哲学者フランシス・ベーコンの言葉だが、自然災害にも全く当てはまる。地震と津波で命を落とさないため、たとえ遭遇しても生き延びるため、さらに被災後もできるだけ早く復興するには、各段階で必須の知識がある。その知識を持つかどうかで生き延びる確率が劇的に変わるのだ。
著者はそのための知識を読みやすい文章で提示するが、ここでは被災後の生活支援のため弁護士活動を20年近く続けてきた経験が生きている。たとえば、巨大津波から生き残るには、津波の前に来る地震の揺れの時間(長さ)が重要である。もし地震の揺れが継続する長さを数えて60秒まで続いたら、大津波の危険があると判断して直ちに高台に駆け上がる必要がある。こうした豆知識を網羅した本書を「家庭の医学」のように各戸に置き、いざというときに役立ててほしいと評者も思う。
今年は1995年に6434人の犠牲者を出した阪神・淡路大震災から30年に当たる。自然災害が頻発する日本列島では、安全と安心が確保された社会をつくるのは並大抵ではない。2030年代には東日本大震災より10倍大きい被害に及ぶとみられる南海トラフ巨大地震が襲ってくると予想される。こうした激甚災害を迎え撃つ際にこそ、多くの人に読んでいただきたい。
京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授
1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学教育。著書に『日本史を地学から読みなおす』(講談社現代新書)、『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など。第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)受賞。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年4月18日号)の一部を再編集したものです。
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