能登半島地震でも拡散されたデマやフェイクニュースとその抗い方
人は見たいものを見、聞きたいことを聞き、そして信じる。そんな抗えぬ性質を持った人類社会に対して、虚実の境界を巧みに曖昧化し瞬時に情報を伝播する高性能な仕組み――SNSと生成AI――が出現した。その結果もたらされた重大なサイドエフェクトは、「フェイクニュース」や「デマ」なのだ。
人間は、ストレスのかかる時代ならなおさら、たとえデマであっても自分たちを昂らせ愛撫してくれるナラティブを安易に欲してしまう――。
だが、そんな諦観に身を浸すままでは、戦前の繰り返し。人類には2020年代バージョンの理性的抵抗が必要である。今回紹介するのは、かつてNHKにアナウンサーとして在籍したジャーナリスト堀潤が、これまで10年以上にわたる取材活動から導き出す自身の報道観をまとめた集大成の一冊。NHKを退局後、「8bitNews」という市民メディアや自身のニュース番組を通じて、国内の被災地や海外の紛争地などで丹念な取材を重ね、高解像度の報道を目指してきた。その軌跡から、彼自身の考える「ソリューションジャーナリズム」「パブリックアクセスとオープンジャーナリズム」という概念を提示している。
粗雑な偽情報から、極めて精巧に作られた生成AIコンテンツまで、ファクトの顔をした創作が拡散される時代。例えば偽の救助要請のコピペ拡散が生じる背景として「これだけの人がいいね! やリツイートをしているのだから本当なのだろう」「自分が拡散に協力しなければ、誰かの命が果てるのを見過ごすことになるかもしれない」というユーザーの焦りや罪悪感などがあげられる。「善意に支えられたデマのタスキリレー」が起こるのだ、と堀は指摘する。その経験から、逆に「簡単に信じてはいけない」との疑心暗鬼が生まれ、本当のSOSが埋もれていく。虚実が入り交じる社会が育てるのは、結果として「不信」なのだ。
堀が、国内外の取材活動とそれを報じるアウトプットの場としてのニュース番組出演などを通じてたどり着くのは、ユーザー側ではGoogleの画像検索などを活用した積極的なファクトチェックリテラシーの実装。報道する側では現場取材や記名性の高い情報源を重視する姿勢と情報の非対称性を埋め、解決まで関わる新しいジャーナリズムの実践。
堀がいち早く駆けつけた能登半島地震など数々の被災地取材の生々しい描写が繰り広げられる一方で、関東大震災でいかにして「官製デマ」が生まれ、感染症のように広がり、あまつさえ史実として記録保存されるに至ったかなど、緩急ある内容は濃厚のひと言。堀の誠実で適切な言葉選びと公平な視点で、現代の人々がそれを知性と勘違いしがちな冷笑主義に決して陥ることなく、報道の未来を考察する一冊だ。(敬称略)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』(ともに小社刊)ほか。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年4月4日号)の一部を再編集したものです。
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