鳥には鳥の言葉があり、文章を話している
「鳥には鳥の言葉があり、文章を話している」。2022年、このニュースで世界を驚かせたのは、東京大学准教授で動物言語学者の鈴木俊貴氏だ。
科学界では、「言葉を持っているのは人間だけ」と長く信じられてきた。しかし鈴木氏は、シジュウカラの「ジャージャー」という鳴き声が「ヘビ」を意味する“名詞”なのではと考え、それを実験で証明。しかも彼らは言葉を持つだけでなく、複数の単語を組み合わせて文を作っていることまでわかった。
鈴木氏がシジュウカラの研究を始めたのは19年前。現在も軽井沢の森で、長いときは1日10時間以上かけてシジュウカラを観察している。本書は研究に没頭した日々について軽快に綴った科学エッセイだ。「鳥の研究の魅力は?」と改めて問うてみると、
「野鳥の観察をしていると、どんな文献にも書かれていない、すごい世界に気付いてしまうことがある。最新技術に頼らなくても、双眼鏡やレコーダー、ちょっとしたアイデアで、世界を驚かせるような研究ができるんです」
と熱を込める。
「僕の研究が広く知られて、『シジュウカラも人間みたいにしゃべるんですね』と言われることがありますが、それは間違い。彼らの言葉は目の前のことを伝えるためにあり、過去や未来の話をする人間の言葉とは違います。鳥には鳥の言葉がある。動物の言葉の能力を解明していくことは、言葉の進化のプロセスに迫るうえで大切です。何より、人間だけが言葉を持つ高等な生き物というわけじゃない。僕らの自然観をアップデートしたくて書いた本でもあります」
驚くことに、シジュウカラ語を理解するのはシジュウカラだけではない。たとえば、シジュウカラが「ヂヂヂヂ(集まれ)」と鳴くと、コガラやヤマガラも集まる。さらに、リスもシジュウカラ語の一部を理解していることまでわかってきた。相手を観察し、種が違う動物とも意思疎通をする――自然の中で生きるために必要な力を、人間だけが失ってしまったのではないか。
多くの研究者が憧れる数々の賞を受賞し、世界中から熱い視線を浴びる鈴木氏。動物の言葉を解き明かす新しい学問を「動物言語学」と名付け、真理の探究を牽引している。
「シジュウカラについてだけでも本当にたくさんの発見があって、一生かけても研究しきれないくらい。動物言語学が世界に広がり、各国の学者が研究を進めてくれれば、動物の言葉がわかる未来も夢ではないと思うんです。その先には、自然と調和し、共生する豊かな未来があるはずです」
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)の一部を再編集したものです。
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