家族、そして人が生きて死ぬこと

文豪トルストイはかつて「幸せな家庭の姿は似ている」と書いた。だが『父の恋人、母の喉仏 40年前に別れたふたりを見送って』を読むと家族の「幸せ」は決して一様ではなく、それぞれの形があると気付かされる。

堀 香織『父の恋人、母の喉仏 40年前に別れたふたりを見送って』(光文社)
堀 香織『父の恋人、母の喉仏 40年前に別れたふたりを見送って』(光文社)

著者の堀香織は雑誌「SWITCH」の編集者として多数の著名人を取材してきた経歴の持ち主。本書はその彼女のデビュー作で、9歳のときに離婚した両親を題材に、その後40年間の折々の思い出と、二人の最期を見送った体験について綴ったものである。

「建築設計士の父はすごくモテる男で不倫や浮気は数知れず。母と離婚後も2度の結婚をしました。32歳で独り身となった母は、私と妹、弟を養うため歌舞伎町のクラブで働き、大学までの学費を必死で稼いでくれました。父は女性関係やお金の面では『ダメな人』でしたが、私たちに注いでくれた愛情は本物でした。私に人を愛すること、人を許すことを教えてくれた二人は、子の贔屓目からしてもだいぶチャーミングだったんです」

ユーモアをまじえて語られる両親のエピソードには度々笑いを誘われるが、読者は読み進めるうちに、きっと人が生きて死ぬことの意味について深く考えることになるだろう。男と女が出会い、結婚して子を育て、親を看取り、やがて自分が子に見守られこの世を去る。その普遍的な人間の営みの輝きを、本書は静謐な筆致で情感豊かに描き出す。

父の遺品を整理する中で、「中学1年生の女の子」だった筆者が父に宛てた手紙を見つけるくだりには、目頭が熱くなるのを禁じえない。「親のことを許したい、愛したいけれどできない。そんな悩みを抱えている人に、私の家族の話が何かヒントになれば、すごく嬉しいです。家族、そして人が生きて死ぬことをテーマに、これからも書いていきたいと思います」

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)の一部を再編集したものです。

(インタビュー・文=大越 裕 撮影=宇佐美雅浩)

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