ビジネスと人権の問題は、今や私たちにとって、ひとごとではない。加害、被害、いずれの当事者にもなりうる可能性が、誰しもにある。

喜田村 洋一『報道しないメディア』(岩波書店)
喜田村 洋一『報道しないメディア』(岩波書店)

ところが、フジテレビの第三者委員会報告書を読むと、幹部たちの判断には「悪気がなかった」ことがわかる。

喜田村氏はこうした他者への関心の低さに釘を刺す。

「どんな仕事でも、相手のことを含めてどれだけ深く想像して考えることができるか。僕らの仕事もそう。あらゆる状況を想像し120%の準備で裁判に挑みます」

喜田村氏はメディア裁判の第一人者だ。ジャニー喜多川が1999年に週刊文春を名誉毀損で訴えた民事裁判で、週刊文春の代理人を務めた。

二部構成からなる本書。前半では法廷での尋問時のジャニー喜多川との攻防から、予想外だった一審敗訴、二審での逆転勝訴まで、裁判の全容を静かな筆致で振り返る。そして主眼となる後半。2023年に英国放送協会がジャニー喜多川の性虐待を報じるまで、週刊文春以外の媒体はこの問題を黙殺した。それはなぜだったのかを考察するこのパートは、これは報道に限った話ではないと、私たちに考えさせる。

「20年前は今ほど同性愛への社会の理解が進んでいなかったので、男同士の性愛なんてありえないという思い込みがあったのでしょう。報道すればジャニーズから締め出されて売り上げに打撃を受けることへの恐れもあったかもしれない。しかし、その結果、1000人近い少年が性被害に遭いました。報道機関が知り得たことを書かなければ、読者の信頼を失い自らの首を絞めることになる。致命的でしょう」

経済と人権のどちらを守るべきかは、もはや自明だ。

「一般の話に置き換えれば、社内でハラスメントに対抗しなくてはならないとき、一人では闘うことが怖くても、隣に座っている人にささやいたり、仲間をつくることはできるでしょう。0か100ではない。10でも20でも、状況をよくしていくことはできるはず。ただし、そのためには自分の頭で考えないとね」

自分で考える力をつけるためには、どうしたらいいか。

(インタビュー・文=長山清子)

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