「書籍PR」という職業をご存じだろうか。出版社の依頼を受けて、新刊をテレビ、雑誌、ウェブメディアなどで取り上げてもらうよう働きかける仕事だ。

黒田剛『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』(講談社)
黒田剛『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』(講談社)

一般的なPRは、大量のリリースを一斉に送ることで採用の確率を上げる。しかし黒田さんは「一人ひとりとのコミュニケーションにものすごく手間暇をかける」というやり方でベストセラーを連発しているのだ。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(黒川伊保子著)は、シリーズ70万部を超えるヒットを記録。『いつでも君のそばにいる』(リト@葉っぱ切り絵著)をはじめとする葉っぱ切り絵シリーズは30万部を突破した。

PRの際の黒田さんの第一声は「今度、こんな面白い本が出ます」ではない。「今、欲しいネタありますか?」だ。聞くのは「お困りごと」。たとえばテレビの情報番組のディレクターは、「行列のできる店」を紹介したい。だが適当な店がなくて困っている。「じゃあ、行列じゃないけど、こんなのはどうでしょう。予約2年待ちの大人気の片づけ先生がいるんですよ!」と提案してみる。すると「それ面白いね」と考えてもらえるのだという。「仕事をしていて困りごとのない人はいません。もし『困っていることは特にない』と言われるなら、それはまだ自分が“相談されるキャラ”になり切れていないということかも」

相談されるキャラになるには、「信頼貯金」しかない。利益に直接つながらなくてもアイデアを提供する。人を紹介する。自分でできることは全部やるのが黒田流だ。「困りごとを解決しようとする努力を、たぶん非効率というんですよ。学校の勉強なら答えがあるけど、現実の問題は答えがない。それを探すのは時間がかかる。でもそれをするから、同業者との差別化を生むことができているんですよね」

黒田剛さん
黒田 剛
書籍PR。QUESTO代表。1975年、千葉県で「黒田書店」を営む両親のもとに生まれる。芳林堂書店外商部を経て、2007年より講談社にてPRを担当。17年に独立し、PR会社「QUESTO」を設立。多くの出版社にてPRを担当。

モットーは、「人から勧められたことは全部やる」。「この店いいよ、この本面白かったよ、この映画よかったよと言われたら、全部行くし、全部読むし、全部見る。そしてその感想を報告します。その積み重ねで人は信用してくれる。効率の悪そうなことが、実は一番効率がいいんですよね」

マラソンの本のPRをしたときは、フルマラソンを走破。ダイエット本のPRをしたときは、その本が説く方法で6キログラム減量した。

本書は、単なるPRの仕事術ではない。「人に何かを伝えて相手の心を動かしたい」と考えるすべての人が読むべき一冊だ。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年8月1日号)の一部を再編集したものです。

(インタビュー・文=長山清子 撮影=ミヤジシンゴ)

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