実際の裁判で問題にされた要素には、まず職種が挙げられる。たとえば1つのミスが生死に関わる医療の現場では、強い叱責が行われても仕方がないと考えられよう。執拗に言い続けたかどうかという継続性や、みんな同じような行為をしているのに特定の1人だけ叱責したようなケースも問題となる。
つまりパワハラを外形的な要素だけで判断するのは難しく、職場全体の文化や雰囲気、あるいは上司と部下との関係を前提として、ある行為がどのような意味を持つかが判断されるわけである。
質問にある「服装の乱れ」についても、職種によってその意味は異なってくる。たとえばホテルのフロントと出版社の編集者では許容される程度は大きく異なり、「服装を改めよ」という命令の適正さも違うだろう。
職場における労働者の自己決定権を職務上どの程度コントロールできるかは、業務命令の適正さにかかってくる。たとえば、バス運転手の制帽着用義務が裁判で争われた神奈川中央交通減給事件では、運転手には着用義務があるとの判断がなされた。もっとも、処分の程度が極端に重いと処分自体が濫用とみなされる場合がある。
裁判でパワハラが認定されると、慰謝料の支払いがペナルティとして求められる。パワハラが原因でうつ病を発症したような場合は、その分の慰謝料が加算される。
慰謝料の金額は事例によって異なり、一概に相場を言うことはできない。同じ事件でも1審と2審で大きな差が出ることもある。
会議中における人間性を否定するような暴言や非難が問題になった三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件では、1審は長年勤続した従業員たる地位を根本的に脅かす嫌がらせであったとして300万円の損害賠償を認めたが、控訴審では原告のふてくされた態度や一連の言動を録音していたことを理由に10万円に減額された。
パワハラにならず、かつ効果的に業務上の指導や命令を行うには、相手が生身の人間であることに留意し、きちんと具体的に理由を説明することが大切だ。業務だからといって相手の人格を傷つける発言が許されるわけではない。