結論から述べると、相手の人格を損なうような発言や行為がなされていない限り、服装の乱れへの注意がパワハラにあたることはないと思われる。ただし、注意した相手が服装を改めず、「従わなければ処分する」と何らかの強制力を伴うアクションをおこす場合はその適正さが問われる。
そもそもパワハラとは何か。パワハラや職場いじめは大きく3パターンに分けられる。(1)仕事をさせないこと、または意味のない仕事をさせること、(2)村八分にするなど職場内の人間的交流を阻害すること、(3)人格を損なうような暴言や叱責をすることの3つである。
こうした行為が裁判に訴えられた場合、労働者人格権の侵害として損害賠償が認められる可能性がある。
労働者の権利というと賃金や労働時間、雇用保障といった労働条件に関する権利が思い浮かぶが、労働者人格権は労働者の人格や尊厳に関する権利で、裁判例を通じて形成された人権法理である。
労働者に対する嫌がらせとして、会社がまったく仕事を与えなかったとしよう。この場合、会社は「賃金を払っているのだから文句はないはずだ」と主張するかもしれない。しかし労働者は「働きたい」という気持ちを持っているのが普通であろう。
服装、髪型などには労働者人格権がある
労働は雇用契約上は労働者の義務だが、この点において権利性がある。その権利とは労働者の人格や尊厳の問題であり、仕事を与えないことは労働者人格権の侵害と考えられる。職場における個人のプライバシーや服装、髪型などの自己決定権についても同様に、労働者は労働者人格権を有している。
ただし、暴力をふるったり明らかに人格を損なう発言をしたりした場合をのぞき、ある行為がパワハラにあたるかの線引きは難しい。上司がハラスメントを行ったかどうかは主観的な判断を余儀なくされるからだ。業務上の教育や指導と労働者の自己決定権のどちらが優先されるかという問題もある。