絶対にないとダメだと思っていたものを手放すと…

徐々に普通の食生活を取り戻すと、フランス語の勉強に励むかたわら、アルバイトで貯めたお金であちこち旅をする。

人生の大きな学びを得たのは、21歳のときに経験した2カ月に及ぶバックパッカーの一人旅。

この旅で、フランスの南部、エクサン・プロバンスを訪れたときのことだ。うっかり電車を乗り過ごし、時刻表を確認して落胆する。

「うわ、あと2時間もこないよ……」

途方に暮れながら街に繰り出すと、伝統衣装を着た人々が次々と現れた。その日は、町のお祭りの日だったのだ。

2008年、旅先のエクサン・プロバンスで出会ったお祭り
写真提供=田澤さん
2008年、旅先のエクサン・プロバンスで出会ったお祭り

絵本の中に入り込んだような歴史ある街並みと、目の前で繰り広げられるあまりにも美しいパレードに心を奪われた。電車を乗り過ごさなかったら見ることはできなかった」と予期せぬ失敗に感謝した。

その後も忘れ物をしたり時刻表が間違っていたりと、思い通りにならないことばかり起こるが、そのどれもが予想外の出会いを運ぶ。

「絶対にないとダメだと思っていたものや、こうでなければいけないという考えを手放した時に、思いがけない幸運があるということを学びました」

100点でなければ気がすまなかった10代の田澤さんは、もうそこにはいなかった。

捌くツーリズムに抱いた違和感

2009年、大手旅行会社に就職すると、人が喜ぶ姿を目撃できるツーリズムの仕事を「天職」だと感じた。しかし次第に、消費を煽る安売り合戦のツーリズムに違和感を募らせる。

安く買い叩かれたバスドライバーは何週間も家族に会えないまま労働を搾取され、コストを極限まで削減した食事はアンケートに「犬の餌みたい」と書かれる始末。薄利多売で利益は伸びず、クレーム対応に追われる田澤さんらの給料もあがらない。激務のために家に帰れない日が続き、円形脱毛症になってしまう同期もいた。

写真提供=田澤さん
大手旅行会社で働いていた時の様子

「日々大量の業務をこなすことに精一杯で、お客様を満足させられなくても仕方ないと思ってしまいました。捌くツーリズムになってしまったんです。誰も幸せになっていないと感じました」

そんな時に出会ったのが、ワインだった。