スターバックスは、1971年の創業から瞬く間に世界最大のコーヒーチェーンへと成長した。なぜ人々はスタバに通うのか。キングストン大学のアレックス・ヒル教授は「私はこのような企業を『センテニアルズ(100年活躍する組織)』と呼んでいる。スターバックスは短期的な利益に屈せず、野心的な長期目標を追求することで成長し続けている」という――。

※本稿は、アレックス・ヒル、小山竜央(監修)、島藤真澄(監訳)『センテニアルズ “100年生きる組織”が価値をつくり続ける12の習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

スターバックスの看板
写真=iStock.com/bensib
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平凡なものを、どうやって特別なものにするか

一例としてスターバックスを見てみよう。シンプルなビジネスモデルととても簡単に提供できる商品だ。コーヒーというベーシックで平凡なものを、いかにして特別なものにできるだろうか。

1983年、北イタリアのエスプレッソ・バーを訪れて帰国したハワード・シュルツの頭にあったのは、まさにこの問いだった。強い帰属意識、つながり、コミュニティといった現地のカフェ文化を、いかにして北米で再現するか。これは、過去2年間働いてきたシアトルの6軒しかない小さなコーヒーショップグループを、世界的なベンチャー企業に変える方法を模索していた彼の、答えだった。

シュルツは、「私は当初から、スターバックスを他とは異なる種類の会社にしようと考えていた」と説明している。「コーヒーと豊かな伝統を称たたえるだけでなく、人と人とのつながりを感じさせたかった。私たちの使命は、人間の精神を鼓舞し、育むことだ。一人ひとりの顧客に、一杯のコーヒーを通して、それぞれの地域で、継続的に(※1)

「父の死」がビジネスの原点に

スターバックスの名前は、『白鯨』に登場する、理性と善良さを擬人化した登場人物に由来している(※2)

シュルツが金のためだけにやってきたわけではないことは明らかだ。彼はコミュニティ全体を変革し、後世まで残るようなビジネスを構築したかったのだ。

「1988年1月、父が肺がんで亡くなった日は、私の人生で最も悲しい日だった」と彼は振り返る。「父には貯金も年金もなかった。もっと重要なことは、彼は、意義があると思っている仕事からですら、充実感や尊厳を得たことがなかったことだ。子供のころは、自分が会社のトップに立つなんて想像もしていなかった。でも、もし自分が変化を起こせる立場になったら、人々を決して置き去りにはしないと、ずっと心の中で思い続けていたんだ(※3)

この崇高な目的意識は、シュルツの指揮のもとでスターバックスが行ったすべてのこと――サプライヤーや店舗スタッフへの接し方から、顧客や店舗がある近隣地域に対する体験の提供まで――を導いた。